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「まさに通訳泣かせ」小泉純一郎元総理の「名言」と驚きのアドリブ力

総理通訳が語る外国語習得のコツ
世界最難関といわれるアラビア語を24歳から学び始め、天皇陛下、総理大臣の通訳まで務めた現役外交官、中川浩一氏。
自身の経験をもとに外国語習得術をまとめた『総理通訳の外国語勉強法』を上梓した中川氏に、総理通訳やアラビア語学習のなかで直面した困難、そしてそこから得られた外国語習得のエッセンスをうかがった。

安倍総理、小泉総理のアラビア語通訳を務める

今年1月初めから約2週間、私は、安倍総理の中東3ヵ国訪問(1月11日~15日。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン)の受け入れ準備のため、オマーンに出張してきました。目の前に広がるオマーン湾は、これから中東で初めて「海上」自衛隊が派遣され活動する地域です。

オマーン湾にのぞむ首都マスカット(photo by iStock)

しかし、自衛隊が中東に派遣されるのは、実はこれが初めてではありません。2003年のイラク戦争後、日本は「陸上」自衛隊をイラク・サマーワ市に派遣していました。私は、当時、小泉総理の通訳官であると同時にイラクの担当官でもあったので、イラク政府の要人や、サマーワ市の関係者が、日本の自衛隊の貢献への謝意をよく小泉総理に伝えていたのを思い出しました。

 

通訳泣かせの小泉総理

2001年から2008年まで、私は総理大臣、外務大臣を含む数多くの政治家の通訳も務めてきましたが、アドリブ力、機転力のすごさは、その小泉総理が断トツでした。

小泉総理といえば、「私が、小泉が、自民党をぶっつぶします!」「(大相撲で)痛みに耐えてよくがんばった! 感動した! おめでとう!」「私の内閣の方針に反対する勢力、これはすべて抵抗勢力だ」「(人生を喩えて)上り坂、下り坂、そしてまさか!」など、数々の名言で有名です。文字通りに訳したのでは、なかなか外国人には分かってもらえない表現をよく使われるので、まさに通訳泣かせの総理大臣でした。

また、通訳にとって、最も困難な場面の一つは、レセプションの挨拶などで、あらかじめ用意された原稿をそのまま読んでいただけず、すべてアドリブで話される場合なのですが、小泉総理の場合、まさにこのパターンでした。原稿案がそのまま読み上げられることはほとんどなく、正直に言えば、私は、レセプションで小泉総理の通訳を務めるときは、首脳会談の通訳よりもはるかにどきどきしていました。

サウジアラビア国王の通訳が最難関

また、数多くのアラブ諸国首脳の通訳も務めてきましたが、その中でも、アブダッラー・サウジアラビア国王(2015年に崩御)のアラビア語は、最も通訳泣かせ(声が小さく、発音が不明瞭かつ一言一言が短い)といわれていました。

私は、2007年に、安倍総理(第1期政権)がサウジアラビアを訪問された際、通訳官として同行しました。そして、そのアブダッラー国王と安倍総理の通訳を行ったときも、最初の首脳会談は何とか対応しましたが、その後の大ホールでの夕食会の席で、周囲が騒がしく、国王の発言をうまく聞き取れなかったことがあり、国王が一瞬英語で話し始めたことがありました。

私はアラビア語通訳なので、英語で会話が始まってしまえば、私の任務は失敗になってしまいます。本当なら通訳はジェスチャーを使うことは御法度なのですが、そのときは身振り、手振りも交えてなんとか通訳し、国王がまたアラビア語で話し始めてくれたことで、事なきを得ました。