ウイルスの増殖を抑える「プロテアーゼ阻害薬」とはなにか?

新型コロナウイルスには効くのか!?
平山 令明 プロフィール

発見された抗HIV薬

能書きはこれぐらいにして、結果を見てみよう。

ブロムペリドールという分子が、最もよく空洞にあてはまることが分かった。ただちにこの分子の酵素阻害活性が調べられた。予想どおり、この化合物は強い阻害活性を持っていた。

この化合物は精神病の治療に実際に使われている薬である。そのため、その意味で正常な人にこの薬を投与することは危険である。またその活性は実際に使うには物足りなかった。

この2つの理由からこの化合物自身を薬として使うことはできなかった。しかし、この研究に触発され、多くの研究者が効果的な薬を考えるためにX線解析の結果を積極的に活用して、しのぎを削った。

 

1997年に抗HIV薬として認可されたネルフィナビルはこのようにして創出された医薬分子で、初年度の売り上げが3億ドルを超す大型商品になった。これはすでに相当数のエイズ患者が、当時でもいたことを示す。

ネルフィナビルは予測どおりに、HIVプロテアーゼの阻害をしているのだろうか? 下図に示したX線解析の結果は、ネルフィナビルが見事にプロテアーゼの活性部位に強く結合することを示した。

HIVタンパク質分解酵素の働きを阻害するネルフィナビル(緑)

HIVプロテアーゼ阻害薬の開発研究では、酵素のX線構造解析に基づきコンピュータで分子を設計する手法が多用され、多くの有用な医薬分子が創製された。この成功は、標的分子のX線構造解析とコンピュータを用いた合理的な医薬分子設計法が極めて有用であることを示し、その後の創薬の方向性に非常に大きな影響を与えた。

本当に新型コロナウイルスに対しても有効なのか? その結論はまだ出ていないが、HIVと同様の増殖分子メカニズムを持っている新型コロナウイルスに HIVプロテアーゼ阻害剤が有効であっても、ちっとも不思議な話ではない。