ウイルスの増殖を抑える「プロテアーゼ阻害薬」とはなにか?

新型コロナウイルスには効くのか!?
平山 令明 プロフィール

敵の弱点を探せ!

私たちのヘルパーT細胞は免疫を支える上で重要であるが、HIVに感染するとその現地生産工場にさせられ、いつのまにかHIVのコピーを生産するようになる。これがHIVの増殖の仕組みである。

近代的な経営にもつながる合理的な生産メカニズムである。敵は私たちの一歩先にいる気がしないでもない。

と感心ばかりもしていられないので、以上のメカニズムを知った後、ではどうすればよいかということである。敵の作戦に穴はないか。

 

それを考えるために、鍵になる段階を振り返ってみる。HIVによるCD4の認識、逆転写酵素によるRNAからDNAへの情報転写、インテグラーゼによるDNAの核への組み込み、そしてタンパク質分解酵素によるウイルス用タンパク質の切り出し。

これらのどの段階が妨害されても、少なくともHIVの増殖はない。

HIVのタンパク質分解酵素を攻撃する

HIVタンパク質分解酵素の研究は、タンパク質分解酵素一般に関して多くの研究がそれまでにされていることから、研究者にとってとっつきやすいものだった。

欧米の複数のグループがこの酵素のX線解析で競い、1989年にほぼ同時に立体構造を決めることに成功した。得られた立体構造を模式的に示したものが下図である。

HIVタンパク質分解酵素

分子は上下対称になっており、中央左側に大きな空洞がぽっかり空いていることが分かるだろう。このタンパク質はアスパラギン酸プロテアーゼの一種で、この空洞部分にタンパク質を分解する活性に必須のアスパラギン酸残基がある。

この酵素がタンパク質分解酵素であることから、化学構造がHIVのタンパク質に類似し、かつこの酵素では分解できない構造を持つ分子が、薬としての可能性を持っている。似て非なる分子を見つけるのは、有効な医薬分子を見つける鉄則の一つである。