ウイルスの増殖を抑える「プロテアーゼ阻害薬」とはなにか?

新型コロナウイルスには効くのか!?
平山 令明 プロフィール

ここではヘルパーT細胞にHIVが取り付き、増殖するメカニズムを見てみよう。

ヘルパーT細胞にHIVが取り付き増殖するメカニズム

HIVはまずヘルパーT細胞の表面に突き出ているCD4という糖タンパク質を認識して、細胞表面に付着し、細胞内に侵入する。その際、自分の中味をそっくりT細胞の中に注入する。注入されるものはHIV固有のタンパク質と遺伝情報である。

HIVは自前の職人もつれてくる

HIVの遺伝情報はRNAに書き込まれている。私たちの細胞では遺伝情報はDNAに書き込まれていて、DNA上の情報しか利用できない仕組みになっている。

 

HIVに感染した時に注入されたHIVのRNAは、T細胞の中でRNAのままである限りは何の役にも立たないが、HIVは侵入する際、自前の酵素である逆転写酵素というものを私たちの細胞に持ち込んでくる。

この逆転写酵素はRNAの情報をDNAに翻訳してしまう。HIVは自前のノウハウと職人を植民地に持ち込んで、自分に都合の良い部品を現地生産しようというのである。DNAを作る原料は、もちろん現地調達である。

まず作られるのは一本鎖のDNAであるが、これはただちに二本鎖を形成する。二本鎖DNAはインテグラーゼというこれもHIV自前の酵素でT細胞の核の中に移行し、染色体DNAに組み込まれる。コンピュータで言えば核はメインメモリーであり、そのチップにウイルスの情報が書き込まれる。

コンピュータ・ウイルスであれば、最悪の場合、すべてのソフトウェアを含む全ファイルを削除して、OSなどを入れ替えればよいが、私たちの細胞の場合、今のところそういう具合にはいかない。つまり現状では、メインメモリーである染色体に入ってしまうとどうしようもない。

その後、遺伝情報に従ってT細胞はせっせとウイルスのためのタンパク質を合成する。よく分からないオーダーであっても、判断されずに作り続けられる。

秘密のタンパク質は一つずつ作られるのではなく、はじめは数珠つなぎになって作られる。ちょうどプラモデルのキットのようである。連結した部品をばらして使うためには、きちんと決まった所を鋏はさみで切らなくてはいけない。

また正確に切らないと後で組み立てがうまくいかないし、細かい部品をうっかり切ってしまうとまったく役に立たなくなる。HIVはその作業を担当する熟練工であるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)も連れてきている。

部品を切り離さなければ組み立てることはできない(photo by iStock)

各部品がそろうと、ウイルスの組み立てがT細胞の細胞膜の上で行われ、完成したウイルスは次から次と飛び立っていく。