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ウイルスの増殖を抑える「プロテアーゼ阻害薬」とはなにか?

新型コロナウイルスには効くのか!?
世界的に感染者が増えつつある「新型コロナウイルス(2019-nCoV)」に対して、既存のインフルエンザ薬や抗HIV薬が有効である可能性が報じられている。いったいなぜ、別の病気のために作られた薬が、新しく発生したウイルスに対する治療薬の候補になりうるのか?

それはHIVと新型コロナウイルスが共通して持つ「プロテアーゼ」という種類の酵素の働きに関係があるという。

今月発売された『カラー図解 分子レベルで見た薬の働き』から、話題となっている「HIVプロテアーゼ阻害薬」といわれる薬のメカニズムについて紹介する。

そもそも「エイズ」「HIV」とはなにか

エイズ(AIDS)とは後天性免疫不全症候群の英語名、Acquired Immunodeficiency Syndromeの下線部の英文字を続けた省略語である。もともと「シンドローム(症候群)」という言葉は、その実体が明確でない場合、あるいは複雑多岐な原因が入り交じっている場合に、表面に現れる現象を指すために使われる。

エイズという言葉は、この病気の原因がウイルスであることが明らかになった1983年以前までに、この病気が引き起こす特徴的な症状に与えられた呼び名である。

つまり、本当の原因は別であっても、症状がエイズのようであれば、エイズと分類されてきたわけである。ここで言う症状とは、後天的に細胞の免疫機能が働かなくなることである。

がんになったり、免疫抑制剤を使用すれば当然免疫機能は大きく落ちるが、これはもちろんエイズではない。

 

1983年にモンタニエ(Luc Antoine Montagnier)らがエイズ患者から新種のレトロウイルスを発見した。レトロウイルスとは、遺伝情報としてDNAではなくRNAを持つウイルスのことである。

その後、このウイルスがエイズの原因であることが分かり、HIV(human immunodeficiency virus)と名付けられた。

HIVによって引き起こされるエイズの症状は、免疫機能の破壊である。その結果、健康であれば問題がない弱いバクテリアに対しても抵抗力がなくなり、いろいろな感染症やがんに罹りやすくなってしまう。

エイズの症状はHIVによって引き起こされる(photo by iStock)

ウイルスの巧妙な増殖メカニズム

このHIVを駆逐する薬を見出すためには、HIVの増殖のメカニズムを分子レベルで詳しく知る必要がある。HIVは私たちの免疫作用を実際に行っているヘルパーT細胞やマクロファージに感染し、その中で増殖したり、それらの免疫細胞を破壊する。

たとえばヘルパーT細胞は健康な人の血液中には1cc当たり700~1500個あるが、この数が400個以下になると免疫不全の状態になる。さらに200個以下になると、がぜん免疫力が低下し、エイズ特有の症状であるニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)やカポジ肉腫に罹りやすくなる。