世界の危機を深刻化させる「無邪気な冷笑家たち」その厄介な誇り

「何をやっても無駄」なのだろうか
渡辺 由佳里 プロフィール

無邪気な冷笑家たち

トランプ大統領の弾劾裁判についても、ソルニットは私に異なる視点を与えてくれた。

トランプ大統領は、2020年11月に行われる大統領選挙で民主党の指名候補になる可能性が高いジョー・バイデン元副大統領を政敵とみなしていた。

2019年、トランプはすでに議会が認めていたウクライナへの軍事支援を凍結し、バイデンと彼の息子の疑惑調査をするようウクライナのゼレンスキー大統領に要求した。つまり、政敵の調査が軍事支援の「交換条件(quid pro quo)」だということだ。

民主党がマジョリティを占める下院は、「大統領が個人的利益のために外国政府の介入を招いた」という憲法違反の疑いで調査を開始し、2019年12月18日に、権力乱用と議会妨害でトランプ大統領の弾劾決議を可決した。

下院議長のナンシー・ペロシ(民主党)が昨年9月に弾劾調査の開始を発表したとき、「そんなことをしても無駄だ」という態度の人は多かった。弾劾調査の進行状況を私が日本語でツイートするたびに、必ずといっていいほど「下院が弾劾しても、共和党が多数の上院で罷免されることはないから無駄ですよ」とリプライする人が現れた。

私は、「これこそ、ソルニットが書いていた『無邪気な冷笑家たち』だ!」と膝を打った。

 

弾劾裁判の結果は絶望的か

ソルニットが、科学者のグループが今後1万年間に起こる気候変動が与える影響の概要を説明した記事をソーシャルメディアでシェアしたところ、最初のコメントは「我々が既に行なったこと/行なっていないことの影響は、何をやっても止めることなんかできない」だったという。ソーシャルメディアでよく出会うこれらの人について、ソルニットはこう書いている。

「冷笑は、何よりもまず自分をアピールするスタイルの一種だ。冷笑家は、自分が愚かではないことと、騙されにくいことを、何よりも誇りにしている。しかしながら、私が遭遇する冷笑家たちは、愚かで、騙されやすいことが多い。世を儚んだ経験そのものを誇る姿勢には、たいていあまりにも無邪気で、実質より形式、分析より態度が優位にあることが表われている」

こういった無邪気な冷笑家の困ったところは、社会に存在する問題の「真の名」を見出そうとする人びとの努力を見下し、茶化し、あざ笑うことで、「社会活動への参加や、公の場で対話する意欲、そして、白と黒の間にある灰色の識別、曖昧さと両面性、不確実さ、未知、ことをなす好機についての知的な会話をする意欲すら減少させてしまう」ことだ。

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