新型肺炎の感染拡大が止まらない。中国では、村人たちが自衛のために土やレンガを積み上げて、外部との交通を遮断したり、武漢からの帰還者を部屋に閉じ込めたりしている。これは、いったい何を意味しているのか。
私の答えを先に言えば、新型肺炎の脅威を前に「もともと中国に存在していた伝統的、かつ排他的な村社会や人間関係が復活した表れ」とみる。それは、すなわち「中国共産党支配の弱体化」でもある。共産党に任せていても、村の安全は守れないから、人々が自主的に防衛し始めたのだ。
村の入口に土やブロック、廃材などを積み上げて、通行人をチェックしている様子をネットで見た読者も多いだろう(たとえば、https://www.businessinsider.jp/post-206664)。単に交通を遮断しているだけでなく、村人が検問し、大きな青竜刀で威嚇していたりする(https://tocana.jp/2020/01/post_141809_entry.html)。
私の目を引いたのは、映像の中に登場した自警団と思しき人々が制服を着用し「自警団(?)」と書かれた、それらしいワッペンまで付けていた点だ。これが何を意味するかと言えば、新型肺炎の流行を受けて急遽、自警団が組織されたわけではない、という事実である。
中国の村には、もともと、そんな組織があったのだ。評論家の石平氏は一連の著作で、中国では、村の治安維持を担当する自警団だけでなく「教育から裁判、社会保障まで、村が一種の『小国家』になって規律と秩序を維持している」と指摘してきた。次のようだ。
ここで宗族というのは、親戚で構成する巨大な一族と理解すればいい。少なくて数百人単位、多ければ、1万人以上に及ぶ。中国では、宗族のような伝統的集団こそが、人々が忠誠を誓う唯一の集団になっていた。まさに「国家を超えた存在」だった。