「ペンギン」を漢字で書けますか? 旭山動物園で漢字を学ぶ

ヒントは「つま先立ち」にあった!
阿辻 哲次 プロフィール

これを見ると、イワトビペンギンは英語では「Rockhopper Penguin」、中国語では「跳岩企鵝」と、文字通り「岩を跳ぶ」にあたる訳語が加えられているのに対して、フンボルトペンギンの中国語には「漢波徳企鵝」とあった。

名前の通り岩を飛び移るイワトビペンギン[Photo by Getty Images]

「漢波徳」は命名の由来となったドイツの探検家フンボルト(Humboldt 1859年没)の名前を、漢字の発音だけを使い「万葉仮名」式に書いた名称だが、ここでペンギンの中国語部分で「跳岩」とか「漢波徳」とある次に、「企鵝」と書かれているのに注目してほしい。

 

なぜ「企鵝鳥」と書くのか?

日本ではかつてペンギンを「人鳥」と書くこともあったが、いまは英語「penguin」からできたカタカナ語「ペンギン」だけを使い、その鳥を漢字で書くことはまったくない。それに対して、カタカナのような表音文字をもたない中国では外国の事物や地名人名も基本的に漢字で書き表すのだが、ペンギンを漢字で「企鵝鳥」と書くのは、日本人にはなかなか理解できないことである。

だが「企鵝」ということばに使われている「企」は、「企画」とか「企業」ということばに使われるから日本でもおなじみの漢字で、「常用漢字表」には音読み「キ」と訓読み「くわだ(てる)」が載せられている。そしてある程度漢字に詳しい人なら、この「企」には「くわだ(てる)」のほかに「つまだつ」(つま先で立つこと)という訓読みもあることをご存じだろう。

じつはこの「つまだつ」が、「企」という漢字本来の意味であった。いま見ることができる最古の漢字「甲骨文字」では、この字は人がかかとをあげて、つま先で立っている形に書かれており、それでこの漢字が「つまだつ」と訓読みされる。

カギは動物園でよく見る "あの姿勢"

「企」という漢字がいまの日本語でもっともよく使われるのは「企画」ということばだろうが、「企画」とは、「つま先で立って遠くを眺める」という意味の「企」と、田んぼに境界線を引くことから、「土地を区切る」という意味を表す「画」(本来は「畫」)をつないだことばであり、そこから「じっと立ち止まり、背伸びをして遠くを眺め、未来を見通して正確に区切りをつけていく」ことを「企画」というようになった。

ほかにも、少し古いことばだが、つま先で立って遠くを眺めるように、ある成果を待ち望むことを「企望」という。

いっぽうペンギンは空を飛ぶことができないから、陸上を移動する時には2本の足でヨチヨチと歩き、そして直立したまま立ち止まる。その姿はまるでつまさきで立って遠くを眺めているように見えることから、中国ではペンギンのそんな様子を「企」という漢字で表現した。それで中国語ではペンギンを「企鵝鳥」と呼ぶようになったというわけだ。

つま先立ちで遠くを眺めるフンボルトペンギン[Photo by iStock]

1年の半分は夜だけの日が続く南極大陸で、ペンギンたちは足の上にタマゴを載せてつま先で立ちながら、地球温暖化に対してこれからどう対処するべきか、そんな行動について企画会議を開いているのかもしれない。