親の過剰な心配が、治療を阻んでしまうこともある

もうひとつ、AYA世代ならではの悩みとして多いのは、「AYAの中でも特に若い子たちは親主導で治療や生活が決められることもある」と岸田さん。一方で、親が心配するあまり、親に気を使って自分の意見を主張できないケースも多いという。

ドラマの中でも、腫瘍内科医が患者である娘に質問していることを、横にいる母親がまくしたてるように答えるといったシーンがあった。20代の娘ががんとなれば親だって平常心ではいられない。その気持ちも分かるし、責めることはできない。ただAYA世代はもう子供ではない。治療するのは本人だ。「親も子も正しいがんの知識を持って、本人が主体となって納得し、治療に望むことが大切」と、勝俣医師も言う。

「未婚の若い患者さんの多くは、親御さん同席で受診されます。なかには、本で読んだとかで、ご両親が抗がん剤を悪いものだと信じてしまい、抗がん剤が効くがんなのに治療をしない、と言われることもあります。進行の早い若い世代のがんで一番大切なことは、早く適切な標準治療を受けることです。ご本人と親御さんに何度も丁寧に説明して説得しますが、正直、難しいときもありますね」(勝俣医師)

岸田さんも、白血病を罹患した若い人で、親の判断で無治療を決めた人の話を聞いたことがあるそうだ。何としてでも我が子を救いたいと悩み抜いた末の選択だと思うと、がん情報のあり方の重みを改めて考えさせられる。

「将来、子供を持てる?」の不安とどう向き合うか

男性の岸田さんも悩んだというが、AYA世代のがん治療は男女とも“妊孕性”が損なわれる可能性がある、という問題はとても大きい。乳がんと診断された私の若い友人は、抗がん剤の初日、治療をしたら将来子供が産めなくなるかもという不安感で怖くなり、病院へ行けず駅のベンチでずっと泣いていた、と言っていた。それくらい、悲しく怖いことなのだ。

「確かに、乳がんの治療で術後に使う抗がん剤は卵巣にダメージを与えるので一時的に閉経することがありますが、AYA世代の方は若いので、治療後に生理が戻り、妊娠される方もいらっしゃいます。ただ、一定数の割合で閉経する方もいます。また、乳がんに使う、女性ホルモンの機能を抑えるホルモン療法を始めると5年~10年は妊娠できません」(勝俣医師)

若年性乳がんの会『Pink Ring』を主宰する御舩美絵(40歳)さんはこう言う。

「若年性乳がん患者さんを対象に、実態調査(2016年~2017年、複数回答)を行いました。“がん診断時の心配事”の1位は“生存率”(67%)だったのですが、2位はそれとほぼ同じ“将来の妊娠出産”(66%)が悩みであることがわかりました。そのあと結婚・恋愛(50%)が続きます。生きることと同じくらい妊娠出産は懸念事項だったのです」。

御舩さん自身31歳とき、結婚式の2週間前に乳がんが分かり、彼(現夫)に「結婚やめてもいいよ」と伝えたという。そのときの気持ちはどんなだっただろう。

「未婚・既婚に関わらず、将来の妊娠・出産に関する悩みは深いです。未婚の方では、一生結婚できないのでは、恋人ができても病気のことをどう伝えればいいか分からないと言った相談もよく受けます。私もそうでしたが、がんになった自分に負い目を感じ、恋愛や結婚に積極的になれないという方は少なくありません。

今は治療後の妊娠の可能性を少しでも多く残すために、妊孕性温存を考える方が増えています」(御舩さん)。

Pink Ringのおしゃべり会のときの御舩美絵さん(中央)

勝俣医師も、AYA世代には、がん治療で妊孕性に影響がある場合、治療前について必ず妊孕性温存の話をするという。

精子凍結保存、卵子凍結保存、既婚者であれば受精卵の凍結保存もできて、この分野も少しずつ研究が進んでいます。将来の出産を希望する場合は、腫瘍内科と連携した婦人科を紹介することも。治療が始まる前に相談することが大切です。

ただ、女性は排卵を待つ時間が必要になり、治療をどこまで先延ばしにできるかという問題もあります。妊孕性温存で必ず妊娠できるわけではないことや、保険がきかないので費用がかかることなども説明します。

実際はがんと診断されると、まずは命が助かることを先決されることが多いので。将来のことまで考える余裕がなく、温存される方はまだ少ないですね」(勝俣医師)。