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「平成の豊かさ」とは何だったのか
阿古 真理 プロフィール

浮かび上がる「平成の豊かさ」

初回で史朗が作る夕食は、鮭とゴボウの炊き込みご飯、豚肉・カブ・カブの葉の味噌汁、小松菜と厚揚げの煮びたし、タケノコとザーサイの卵炒め、つくりおきの大根とホタテ缶のなますの一汁三菜。料理は若い頃に付き合った男性から教わったことがベースにあるが、ときどき出てくる実家の場面で、母親が作っていた料理の影響もうかがえる。

実家の様子はどうだろうか。正月に帰省した史朗は、母親が「お昼はトンカツ揚げましょうか」と言い出して、手伝わされる。おせちを食べないで、トンカツ、切り干し大根の煮物、スパゲッティサラダ、ホウレン草と油揚げの味噌汁の献立にする。

母は「お父さんと二人じゃもう面倒でトンカツなんて揚げやしない たまーに食べたくはなるんだけどね 史朗さんが帰ってきてくれたから あたし達も久しぶりに揚げ物食べられたわ」と言う。そこから、昭和時代に母がかいがいしく働き、当時新しかった洋食などを張り切って作っていた姿が浮かび上がる。

昭和の専業主婦家庭では、栄養バランスと経済性を両立させた献立が、毎日当たり前に出されていた。それを食べて育った子は、自分が台所に立つと、工夫した献立を難なく作れるのである。

 

友人たちの食卓を見よう。ある夏の日、小日向の冷蔵庫が壊れ、食材を預かってもらうために史朗たちの家へやってくる。しかし、丸ごと一匹のキンキ、ローストビーフ用の塊牛肉と、「うちの庶民的な容量の冷凍庫には到底収納出来ない大物の食材様がいらっしゃる」と史朗は佳代子も呼び出す。

すると佳代子は、醤油・酒・水・ニンニクの合わせ調味料を沸騰させた中に塊肉を入れて表面だけ一通り煮た後、再沸騰させた煮汁を冷まして肉と共にタッパーに入れ、冷蔵庫に寝かせるというなんちゃってローストビーフを伝授する。キンキはアクアパッツァに。おしゃれ野菜をサラダにする。これらのごちそうは、帰宅した賢二といつもの4人で食べる。

佳代子は、娘一家が来るからと帰る。おみやげに、と小日向から小分け冷凍したエシレバターをもらい、一家でそのバターを載せた、ごちそう感いっぱいのホットケーキを楽しむ。ここから浮かび上がるのは、本格的な外国料理が身近になり、アレンジレシピまで定着した平成の豊かさである。