コロナに負けるな、湖北省! 謎の新種化石も出てくるスゴさを知ろう

タマゴも骨格も発掘の激レア地域です
安田 峰俊 プロフィール

もっとも、ユンシアンサウルスが本当に新種であるかは現時点では不明である。

この恐竜の名前は、隣の河南省の地質専門家の周世全の著書『中国南陽恐竜蛋』(2005年、中国地質大学出版社)でチラッと言及されているほかは、ほとんど学術的な文献に出てこない。もちろん学界で正式に報告されてもいないため、新種の学名としても認められていないのだ。

とはいえ武漢市内にある湖北地質博物館4階の古生物フロアには、このユンシアンサウルスの体高3メートル、全長6メートルの復元骨格が展示されているそうである。

学問的な正しさはともかく、湖北省の住民に親しまれている恐竜なのは間違いないだろう。なんせ、名前に「湖北」を冠する恐竜は、おそらくユンシアンサウルス・フベイだけだからだ。

湖北省はタマゴがすごい

もともと湖北省十堰市の一帯は、恐竜の骨の化石よりもタマゴの化石がよく見つかる地域として知られていた。1995年、郵便局員が地元の研究者・王正華(後の鄖陽区博物館館長)に、農民がタマゴ状の奇妙な石を掘り出したという噂を漏らしたことがきっかけだ。

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王正華は県の博物館や文化局に報告し、調査隊が周囲一帯を調べたところ、柳陂红寨子・李家溝・臥龍山・磨石溝……といった各地で無数のタマゴ化石が発見された。タマゴの形も、いわゆる「タマゴ形」のほかに球形や楕円形と各種各様。色も褐色・暗褐色・灰白色と3種類があった。

発見地が広範囲にわたるため、総称として「青龍山恐竜蛋化石群」という名称が与えられることとなり、ときに盗掘や転売に苦しみながらも研究者たちの発掘調査が進んでいった。古い数字だが、18年前、2002年の時点ですでにタマゴ化石を含む岩盤が2000枚見つかっていたとのことなので、現在はさらに多く発見されていることだろう。

通常、恐竜の骨格とタマゴでは化石ができやすい環境が異なるといわれている。研究者の間では、タマゴが多く見つかる地域では骨格が見つかりづらいという認識もあったのだが、1997年のユンシアンサウルスらの骨格発見によって、この付近の地域は骨格・タマゴの双方が見つかる稀有な地域であることも明らかになった。

事態が解決するまでは……

現在、青龍山には柳陂鎮青龍山恐竜蛋遺址博物館という大規模な恐竜博物館が開館しており、2019年8月には中国鄖陽恐竜蛋研究中心なる、恐竜のタマゴ化石の専門研究センターの設置も決定している。

ほか、省都の武漢市にある湖北地質博物館の恐竜展示も、十堰市から出土した化石を多く展示しているらしく、まずまず見ごたえがあるようだ。

周知の通り、2020年1月なかばに武漢市を発生地とする新型コロナウイルスの流行が深刻化し、1月23日には武漢市が封鎖されてしまった。その後数日のうちに、十堰市も封鎖されている。

2月1日現在、新型肺炎の死者259人のうち249人は湖北省内での犠牲者であり、湖北省は未曾有の危機にさらされている。当分の間は、ユンシアンサウルスやタマゴ化石たちと気軽に会えない状況が続くことだろう。

事態の解決と、湖北省の市民生活の一日も早い正常化を望みたい。

武漢の街並み Photo by iStock
【参考文献】
「湖北省鄖縣梅鋪鎮李家溝村恐龍骨骼化石發掘始末」『化石網』

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