朝日新聞記者の牧内昇平氏がまとめた『「れいわ現象」の正体』(ポプラ新書)。これは2019年春に「れいわ新選組」を立ち上げた山本太郎を支持する人々を取材し、多角的に検証した一冊だ。ここにあるのは山本太郎という政治家の単なる分析ではなく、れいわ現象によって浮かび上がってきた「現代社会の生きづらさ」が描かれている。

れいわ現象の最大のトピックの一つが、木村英子、舩後靖彦両氏の当選だった。難病や重度障害を抱える二人が議員になったことによって、国会のバリアフリー化は一気に進んだ。牧内氏がれいわ現象の正体を取材するにあたり、哲学者の森岡正博早稲田大学教授に行ったインタビューは、「命に上下はない」という当たり前のことを確認するとともに、誰もが幸せに充実した人生を生きるためにどうしたらいいのかのヒントを探る内容だ。

『「れいわ現象」の正体』よりそのインタビュー部分を抜粋してお届けする。

重度障がい者擁立の意味 

れいわ現象で重要なのは「人間としてどう生きるか」だ。そうだとすれば、 政治よりも哲学の問いに近いのではないだろうか。ここに紹介するのは、早稲田大学人間科学部の森岡正博教授である。森岡氏は哲学者として、かけがえのないこの人生をいかに悔いなく生き切るか、をテーマに思索を続けている人だ。生きづらさを抱えた人びとが政治を変えようとした「れいわ現象」は、哲学者の目にどう映ったのか。わたしは聞いてみたかった。面識のない森岡氏にメールで取材を申し込むと、気軽に応じてくれた。東京・新宿の早大キャンパス内 にある喫茶店で、インタビューを行った。

―― 「れいわ現象」とは何なのかを考えています。取材によれば、貧困や障がいなどさまざまな生きづらさをかかえた人びとがれいわを熱心に支持していました。森岡さんは、この「れいわ現象」をどう見ましたか。 

森岡「党首の山本太郎さんは今回の参院選で重度の身体障がいをもった方(舩後靖彦氏と木村英子氏)を擁立しました。あれはかなり驚きましたね。政治に新しい局面をもたらすことになると感じました。ユーチューブにあがっている彼の演説も見ました。面白いメッセージだなと思いました」

――誰もが生きる権利がある、というメッセージのことでしょうか。 

森岡「思想運動をしてきた人びとが細々と言ってきたことが政治の文脈に乗った、という印象があります。1970年代の『青い芝の会』の運動あたりからずっと言われてきて、それを思想家や学者たちが受けとめて言い続けてきたことがまさにこれですよ。つまり、人間の属性で生きる死ぬを決めるなということですね。『あなたはこういう人間だから早く死んでいい』とか、『あなたはこういう人間だから生まれてこなければよかった』というようなことで社会をつくるな、っていうね」

青い芝の会とは、障がい者差別の解消を訴える脳性麻痺者の団体だ。車いすの脳性麻痺者が一人で路線バスに乗ろうとし、バス会社から拒否されたことに抗議した「川崎バス闘争」(1977年)が有名だ。

乗ること自体拒否されるとは…Photo by iStock

森岡「れいわ新選組が発しているメッセージ、『命に上下はない』というのは、1970年代に当事者たちがつらい中で言ってきたメッセージです。それが 50 年かけて、政治の舞台にたどり着いたということです。こうして日本の現代史の中に位置づけたとき、クリアに見えてくるものがあるのではないでしょうか」

――何がクリアに見えてきますか?

森岡「わたしの考えでは、青い芝の会から社会が受け取るべきメッセージの本質は、『生きづらいのは健全者の方じゃないか』ということだと思います。彼らは『健全者』という言葉を使いました。障がい者は健全者の社会から差別され、抑圧され、生きづらくなっている。でも、実は自分たち障がい者の方が、生きづらさをはっきり見据えているという点でちゃんと生きているんじゃないか。自分たちを抑圧している健全者の方が、本当は生きにくいんだけど、そこから目をそらしているのではないか。だから、『健全者たちよ目覚めよ』ということですね。このメッセージが、50 年後にれいわの議員からも発せられていると思います」