Official髭男dismの新曲「I LOVE...」を親密性から読み解く

「イレギュラー」な愛が織りなす星座たち
阿部 幸大 プロフィール

「独り」では気づけないこと

関係性を読むとはどういうことか。もうしばらくMVと音楽を中心に論じながら、具体例を提示してみよう。

さきに6組を前半と後半で分けたが、こう分類したとき浮上してくるのは、1番から登場している妊婦の重要性である。すでに見た1番と2番の落差にともなって、彼女はその様相を変える(出産するからではない)。その点で彼女は、作中もっとも複雑で批評的な役割をはたすことになるのだ。

まず彼女の特権性を音楽的に裏付けよう。1番で、この若き妊婦は3度現れる。その3度目は1番のメロの終わりに位置しており、つづいてサビに移行するまえに、2小節の空白が挟まれる。JPOPの語法上これはレギュラーな処置ではなく、2番にこのブレイクはない。

この静寂には「ドドッ、ドドッ、」というドラムだけが鳴っているが、映像で彼女が腹部を撫でるため、これを心音と連想することは避けられない。その直後には「高まる愛の中」と胸の高鳴りを彷彿させる歌詞が続くので、次の「心情」という歌詞を「心臓」と聞き間違えかけた人も多いはずだ。このように音楽と共鳴するキャラクターは、彼女ひとりである。

「I LOVE...」公式MVより

さて、MVを観たひとは、2番で彼女が赤子を抱き上げる場面で、彼女はシングルマザーなのだろうと思ったはずである。

「I LOVE...」公式MVより

おそらくそうなのだが、その正誤じたいは問題ではない。重要なのは、2番で現れる父子家庭や同性愛カップルといった「イレギュラー」たちによって準備された文脈がなくては、この映像だけでシングルマザーという憶測などそもそも生じえなかった、と気づくことである。

つまりわたしたちは、愛の多様性がテーマだ、という枠組みが与えられてはじめて彼女のイレギュラリティを承認したにすぎない。逆にいえば、わたしたちは2番の彼女を観るとき、1番ではレギュラーなものの見方でイレギュラーを看過してはいなかったか、と自問すべきなのだ。

このMVでは、独立した6つのグループが相互に作用しあい、各コミュニティ同士もまた親密圏を形成しているかのようだ。「独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう/こんなに大切な光に」という歌詞は、まさしく個々のキャラクターから諸関係が織りなす「圏」へと焦点をシフトさせることの重要性を表現している。