Official髭男dismの新曲「I LOVE...」を親密性から読み解く

「イレギュラー」な愛が織りなす星座たち
阿部 幸大 プロフィール

「...」と言い淀む意味

まずは歌詞を読んでいこう。最初に注目されるのは、解釈を誘う不完全なタイトル、「I LOVE...」の意味である。なぜ愛する対象となる目的語は省略されているのだろう

第一に提出される解釈は、「...」の部分には誰もがまっさきに想定するであろう「You」以外にもさまざまな――そう、イレギュラーな対象が代入可能なのだ、その多様性を示すためにここはブランクのままなのだ、というものだろう。これはひとつの答えとなりうる。

だがこの歌詞の登場人物はあくまで「僕」と「君」であり、「普通のことだと/とぼける君に言いかけた/I Love」と歌われているいじょう、そこに her とか him とか色々な相手が入るのだという解釈では、どうも整合性がとりにくい。

むしろここでは、愛するYouが目のまえに存在しているにもかかわらず、そして脳裏には「I Love You」というフレーズが浮かんでいるにもかかわらず、その明言を思いとどまっていると見るのが自然だろう。だから考えなくてはならないのは、やはりI Love You」からの距離である。

それを考えるためのヒントは、曲中でいちどだけ歌われる完全な文、「I Love Your Love」との差異である。この「I Love You」からの絶妙なズラしが現れるヴァースを引用してみよう。

I Love I Love/不恰好な結び目
I Love I Love/手探りで見つけて
I Love Your Love/解いて 絡まって
僕は繰り返してる/何度も

ここにはまさしく親密の思想がみてとれる。この曲が描きだす愛は、いわば目的語なき「I Love」の総体が織りなすネットワークのようなものだ。

「I Love...」は、「僕」から「君」へという属人的・直線的な「I Love You」とは対照的に、2人の周囲をめぐる多方向的・空間的な親密圏をなすやじるしの1本にすぎない。歌詞が「I Love」を繰り返すことの重要性を説くのはそのためだ(MVのポスターにも “I REPEAT IT MANY TIMES” という文字列が確認できる)。

そこでは、いかに「You」と強く長く愛しあえるか、という所有性は問題にならない。だから「I Love You」は封じても、「I Love Your Love」とは歌えるのだろう。「重なる愛」とは、この連鎖を言っている。

そんなの愛じゃない――と感じたとしたら、あなたはすでに、これを男女愛や家族愛の定義で断罪している。「僕」と「君」はレギュラーな「I Love You」からこぼれ落ちた二点なのであり、「...」の言い淀みに、それとは別様の親密性を構築するための「手探り」を聞かなくてはならない。

「完全に分かち合うより/曖昧に悩みながらも/認め合えたなら」。これは完全さからはほど遠い、弱い愛の反復である。あえて「I Love You」を避けながら紡がれてゆく「I Love...」の網の目、それを本稿では親密圏と呼びたいわけだ。