「自分は絶対に正しい」という暴君を黙らせる「ある1つの方法」

『新しい哲学の教科書』

やがて独裁政治につながる

岩内章太郎氏の『新しい哲学の教科書』は、現代思想の流れがよくわかる優れた作品だ。

ガリレオ、コペルニクスらによって、宇宙像が転換し、「上にいる神」という表象を維持することができなくなった。これが近代思想の出発点だ。

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〈神は「高さ」と「広さ」によって人間の生の意味と社会の秩序を保ってきた。高さとしての超越性は、存在不安を打ち消すと同時に超越的なものへの憧れを喚起し、広さとしての普遍性は社会の秩序、とりわけ善悪の秩序に結びついていた。

だが、近代からポストモダンに移行するそのちょうど過渡期にニーチェが「神の死」を宣言したように、歴史的には、宗教的権威とそれにもとづくシステムは徐々に弱体化し、時間とともに神の力は衰えてしまった。この事実は西ヨーロッパに限ったことではなく、近代化が押し進められた多くの場所で広く起こったことである〉

 

神の死を宣告すれば、絶対的に正しい価値観は存在しないというニヒリズムに至るのは当然の流れだ。ロシアの文豪ドストエフスキーは長編小説『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』でこのようなニヒリストの姿を描いている。

もっともニヒリズムを貫くことが出来る強靭な精神の持ち主は、極少数だ。大多数の人々は、その日の生活に流されて、人生の意味や自らの存在根拠について問うことをしない。

そのような状況に付け込んで「俺についてくれば、すべてうまくいく」というようなカリスマ性を帯びた指導者が出てくるとナチズムやスターリニズムのような独裁政治につながる。