ヴィアジェになっている
アパートはかなり安い

合理精神が徹底しているフランス人のすることだから、ヴィアジェにもそれが活かされているはずだ。そこでこのシステムのメリットを考えてみよう。まず、老人にとっては生きているうちに、住んでいるアパートを売却してしまうのだから、自分に遺産の生前贈与をするようなものだ。売って転がり込むまとまったお金で、余生をより豊かに過ごすことができるというわけだ。次に、老人つきのアパートを買う側のメリットはなんだろうか。

空き家になる一般の売り物件にくらべ、ヴィアジェになっているアパートの価格はかなり安い。老人の死を心待ちにしてはいけないけれども、生存期間の長短が明暗を分けることになるから、賭けの要素がつよい。ところが、どの世の中にもギャンブル好きがいるとみえ、彼らはその賭けが面白いという。そして彼らはこういう。不謹慎だといわれても構わない、自分は人助けだと思っているのだから、お金のない老人に愛の手をさしのべているのだからと。

親が残してくれるはずの遺産の胸算用をする連中よりも、ヴィアジェに投資するほうがずっと良心的だと、彼らは主張する。果たして、自分の親の財産を当てにするのと、老人の寿命に投資するのと、どちらがマシだろうか

アパートの近くで高齢の女性徒若い女性がいても、祖母と孫とは限らない。元オーナーと現オーナーかもしれないのだ Photo by iStock

人の生死にかかわることだから、ヴィアジェに法律的に厳しい規制があってしかるべきだ。たとえば、アパートの売買が成立した日から、20日以内に持ち主の老人が他界した場合は、契約自体が無効になるというように。それにしても老人の命が、お金に換算できるのだから合理性を通りこし、あまりにもドライな話である。

パリだけでなく、フランス第2の都市のマルセイユや第3のリヨンの中心地にも、一人暮らしの老人もいることはいる。それでも地方の町や村では、2世帯はおろか、3世帯同居も珍しくない。といっても私が知る限り、キッチンはカップル単位で別々にしている場合がほとんどである。

親が病気で寝込んだり、老夫婦の片割れが亡くなり、食事の仕度に支障をきたすようになってはじめて、下の世代が老人の世話を焼く。「スープが冷めない距離」というのが、まさにそれなのである。

ある日、親友の中で博識でとおっているモニクに、ヴィアジェに関して質問したときのことだった。しつこく聞いた私に、彼女はキッパリとこういった。ヴィアジェについては、日本人に教えなくていいからねと。
 

お金がなくても平気なフランス人、お金がなくても不安な日本人』日本が大好きだから、そしてフランスも大好きだから、そのいい所を思う存分真似したら、もっと幸せになるんじゃない? 底抜けに明るく優しく、かつ鋭い視点をもつ吉村葉子さんが20年間のフランス生活を振り返ってまとめたエッセイ集。考え方ひとつで不幸だと思っていたことも幸せになるし、人生は楽しくなる! その中から厳選したエッセイを特別に今後も限定公開予定。お楽しみに!