「家主の老人もセット」で売る不動産

Le viager(ル・ヴイアジエ)というのがそれで、辞書にしたがって邦訳すると終身年金のことで、leがつくから男性名詞である。仏和辞典にはそうとしか記載されていないが、もう一つべつの意味がある。有名なル・フィガロ紙の不動産ページをよく見ると、四角く囲まれたアナウンス欄に、Le viagerと記されているから、フランス人ならだれでも知っている不動産案内の一種だ。フランスでは、不動産取得が財形の第一歩とされているから、新聞を見るときもなにはさておき不動産欄をまず開けるという人もいる。そしてヴィアジェのシステムを知れば知るほど、フランスの一人暮らしの老人の暮らしが見えてくる。

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簡単にいうとヴィアジェとは、家主の老人とセットでアパートを売るシステムである。パリ市内には、数えられるほどしか戸建ての家はない。それも数メートル先から郊外になってしまうような、1区から20区がエスカルゴ型にうずをまく外周の近くにしかない。売りに出される物件も、すべてアパートである。アパート売りますの広告を出して買い手がつき、いざ引越しとなれば、アパートが空き家になっているのがふつうである。ところがヴィアジェとことわってある場合はそうではない。だれかがそのアパートを買ったとしても、前の持ち主の老人が終身そこに住むという条件がついているからだ。

住んでいた元オーナーの部屋はオーナーが住んだまま購入する。購入者がその部屋に住みたくても、しばらくは別の部屋に暮らすしかない Photo by iStock

買ってもすぐに住めるとは限らないから、空き家になっているアパートよりも、値段が安いのは当然である。たとえ安く購入したとしても、赤の他人の老人がそのまま長生きしたとしたら、いつまでたってもアパートは自分のものになった気がしない。アパートが自分の手に入るまで、待たなくてはならないし、それが2年先か10年先か、それこそまさに神のみぞ知ることだ。