トランスカルチャー社会に見る
カナダらしい文学 佐藤アヤ子 著

“カナダらしい文学作品”とは何でしょう? もちろん『赤毛のアン』は今も日本で絶大な人気ですし、1970年代後半からカナダ文学を開花させたといわれるマーガレット・アトウッドや、2013年にノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローも世界中で読まれる作家です。

また最近は、国家、民族、言語、宗教を超えた「トランスカルチャーリズム」作品が面白い。多民族が暮らすモザイク国家として知られるカナダですが、近年、新しい多文化共存のあり方を求める人々により、モントリオールで始まった流れです。

代表格には、内戦が理由で故郷レバノンから亡命しモントリオールに移住した劇作家ワジディ・ムアワッドや、やはりエジプトから移住したカナダ映画界の巨匠アトム・エゴヤンが挙げられます。前者は戯曲『焼け焦げるたましい』、後者は『アララトの聖母』という傑作をそれぞれ世に送っていますが、どちらも民族の体験に基づく、宗教や人種間の争いをモチーフにしています。

続いて、ハイチ出身の小説家ダニー・ラフェリエールも23歳の時に同僚のジャーナリストが独裁政権に殺害されたのをきっかけにカナダに亡命。『帰還の謎』など多くの作品を発表しています。また、ベトナムのサイゴン(現ホーチミン)に生まれ、ベトナム戦争後、共産主義化した体制から逃れるため難民としてカナダ政府に受け入れられたキム・チュイ。自身の難民としての体験を描いた自伝的小説『小川』は世界中で刊行され、2018年にはニュー・アカデミー文学賞にノミネートされました。

一方で、カナダは同性愛者など性的マイノリティにもやさしい国です。アン=マリー・マクドナルド、トムソン・ハイウエイ、ティモシー・フィンドリーといったLGBTQ+作家、劇作家を輩出し、日本でも上演されファンが増えています。2018年にカナダ総督賞を受賞した日系三世のメディアアーティストのミディ・オノデラもLGBTQ+作家です。

国や人種、性別の枠を超えた作家による素晴らしい作品群。それをフラットに受け入れる社会も含めて「カナダらしい」作品といえそうです。

カナダの「今」がわかるニュース

●難民・移民の受け入れに寛容
2万5000人のシリア難民受け入れを公約に掲げ当選したジャスティン・トルドー首相。カナダ議会も2022年までに100万人超の移民受け入れ計画を発表している。

●プラスチック製品の使用禁止を宣言
早ければ2021年からプラスチック製品の使用を禁止するとトルドー首相が表明。ビニール袋、ストロー、カトラリー、皿、マドラーなどが対象になりそう。

●2018年にカナダ全土でマリファナが合法化
マリファナが合法のカナダ。州によってルールは違うが、例えばオンタリオ州では政府管理のオンラインショップで購入でき、一世帯3株までなら栽培もできる。

●LGBTQ+の権利を守るルールがたくさん
同性婚は法律的に認められており、LGBTQ+差別は法律違反、学校ではLGBTQ+の授業もある。またパスポートには第三の性「X」表記ができる。

佐藤アヤ子 Ayako Sato
明治学院大学名誉教授、翻訳家、日本カナダ文学会会長。共著に『現代カナダを知るための57章』、訳書に『孤児のミューズたち』(ミシェル・マルク・ブシャール著)、『洪水の年』(マーガレット・アトウッド著)ほか多数。


●情報は、FRaU2019年10月号発売時点のものです。

Text & Edit:Yu Ikeo Cooperation:Kozue Sato (Music , Art , Fashion , Cinema)