その資料を前にちょこんと座って話し始めた宮下さんは、きれいな岩石に惹かれてこの世界に入った。地下深くで生まれるガーネットなどの硬い鉱物が研究対象だったというが、人当たりはフワフワとして柔らかい。活断層の壁面を相手にしているような雰囲気ではない。

まず、2016年4月に起こった熊本地震の断層について聞いた。
「熊本には、布田川(ふたがわ)断層帯と日奈久断層帯という2つの大きな断層帯があって、布田川断層帯から枝分かれするように、日奈久断層帯が南の八代方面に伸びています。今回の地震では布田川と、日奈久の一部がずれてマグニチュード7.3の地震を起こしました。居住地の直下で断層がずれ動いたので、大きな被害になったのです」

この2つの断層、じつは以前から危険視されていたという。
「2013年の時点で国から長期評価が公表され、地元紙でも『発生確率は全国一』と報道されているんです。でも今回、現地に調査で入って地元の人に聞くと『そんなこと聞いていない』とおっしゃる。人に危機感を伝えることの難しさを痛感させられる一件でした」
宮下さんらが地震後3年間にわたって調査したのは、割れ残ったとされる日奈久断層帯だ。
「日奈久断層帯は、全長80キロメートルほどもある断層帯で、今回は北部の一部しか動いていないんです。断層が地震によって一度に動くのはだいたい20~30キロメートルと言われています。そして、お隣の布田川断層帯が動いて、歪みの状態が変わったと言われています。その意味で、残った断層の危険度が気になるところです。その調査を3年担当しました」

地表まで割れ動いたあとの断層ならば、その割れ目を掘っていけばいいのだが、地表からはわからない、動いていない断層はどうやって場所を特定するのか。全長80キロメートルとはいっても、調査のために地面を掘るのはたかだか10メートル四方だ。