強権独裁が横行する世だから読もう、非暴力・不服従の元祖「老子」

庶民が圧政に抗して生き抜く知恵
大原 浩 プロフィール

五色が他人に支配される根源

独裁者が憎むべき存在であることには異論がないと思うが、実のところ「独裁者がたった1人だけで独裁などできるはずがない」ということは忘れてはならない。

国民の大多数が独裁に反対していても、幹部や軍部などが追従するから独裁が成り立つのである。逆に言えば、彼らが反旗を振りかざせば、独裁などあっという間に崩壊する。それが分かっているからこそ、独裁政権ではその反旗の芽を摘むために、恒常的に粛正(処刑)が行われるわけだ。

 

それでは、独裁者が幹部や軍部を懐柔するために使う武器といえば何であろうか? それが老子が言うところの「五色」である。耳慣れない言葉だと思うが、要するに人間の欲望を刺激するすべてだ。

北朝鮮の独裁者である金正恩氏配下の「喜び組」をイメージすればよいであろう。人間がこのような欲望に逆らうことは難しく、その「五色」を特定の幹部に分け与えることによって独裁を維持するのだ。カルロス・ゴーンの日産支配でも同じようなことが行われた。

もっと贅沢をしたいというような欲望を持つから、人間は他人(金)に支配される。無欲が一番強いのだ。

老子は「美しい音楽を聞くこと」も五色の1つにあげている(当時、音楽を楽しむのはかなり贅沢な行いではあったが……)が、五色に惑わされないためにはかなりストイックに生きる必要があり、その点が老子が「世捨て人の指南書」のように扱われる原因だと思う。

しかし、「五色を捨てる」ことは、むしろ世の中と闘うためであることは、これまで述べてきたとおりだ。

「五色」に惑わされるのは幹部だけではない。アドルフ・ヒトラーのナチス・ドイツが1933年の「国民の普通選挙」によって成立したのは紛れもない歴史的事実である。

ナポレオン・ボナパルトも自らを「フランス人の皇帝」に推戴させる選挙を行い、その結果圧倒的な賛成で、1804年に皇帝ナポレオン1世として即位している。

国民も「目の前にぶら下げられた餌(五色)」で判断を誤ることがあるのだ。老子が諭すのは、ローマ皇帝が駆使した「パンとサーカス」(お腹をいっぱいにさせ、娯楽を提供する)によって独裁者に操られるようなことになってはいけないということだ。