強権独裁が横行する世だから読もう、非暴力・不服従の元祖「老子」

庶民が圧政に抗して生き抜く知恵
大原 浩 プロフィール

老子は非暴力・不服従の元祖

ただし、重要なのは、老子は「権力者の圧制がひどい場合には、革命(暴力)で対抗せよ」などということは一言も言っていないということだ。

暴力で政府を打倒しても、その政府を打倒した「革命勢力」があっという間に「独裁者」になることは、中国大陸の事例などで明らかだ。

したがって、老子が掲げるのは現代的に言えば「非暴力・不服従」という考え方である。

言ってみれば、老子はネルソン・マンデラやマハトマ・ガンディーなどのはるか先駆者であるということだ。

 

古代中国にこのような先駆的思想が生まれたことは驚異だが、長い苦難の歴史を経て、広い世界の一部にせよ「民主主義」が機能し始めた現代においては、さらに重要な教えになりつつある。

グーテンベルクの印刷術の普及以来、権力者が情報を独占することが難しくなった。それ以前は、神父などの聖職者以外が聖書を読むことはほとんどなく(手書き写本の聖書は現在の高級車ほどの価格であったし、そもそもほとんどの人は字が読めなかった……)、信者は神父の口頭の話を信じるしかなかった。

しかし、印刷技術の発達により人々が「聖書に書いてあることと違うではないか!」ということに気づき、宗教改革が行われたのである。

インターネットによって情報革命が始まった現代も同じ状況だ。これまで、カトリックの神父のように情報の流れを独占していたオールドメディアに対して「事実と違うフェイクニュースだ!」と、インターネットという新技術を手に入れた国民が追求できるようになったのである。

現代の国民が独裁権力と闘う武器は「情報と共感」である。

香港警察が非道な行いを行っても、あくまでデモで対抗(過激なデモ隊の行動とされるものの多くは、デモ隊になりすました人民解放軍〈香港警察〉の仕業とみられ、その証拠画像もネットに数多くアップされている)している香港の状況は世界中に拡散され、危機感を持った民主派が立ち上がり、台湾総統選での勝利につながった。

まさに、老子を起源とする「非暴力・不服従」が世界の民主化に大きく寄与し始めているのである。

圧制に対して暴力で立ち向かうのではなく、知恵と不服従で立ち向かうのが老子の基本的な教えだ。