「役所はこんな巧妙な隠蔽をするのか」
その報告書を読んで、私はあ然とした。
旧日本兵の遺骨だと思ってDNA鑑定した専門家が「絶対に日本人ではない」とミスの公表を求めたのに対し、厚生労働省の役人たちは徹底してサボタージュし、無視を決め込んだ。昨年末、弁護士らの第三者チームが調査報告書を公表し、その手口が明らかになった。
私たちが75年前の第二次世界大戦から学んだ苦い教訓の一つに、軍部が正確な情報を隠蔽し、国民も大本営発表を鵜呑みにしたことがある。
遺族の援護や遺骨収容を通じて「過去」と向き合ってきたはずの厚労省。なぜ行政は事実を闇に葬ったのか、なぜ私たちはうそを見抜けなかったのだろうか。
そもそも、なぜ厚労省が遺骨収容を手がけているのか、疑問に思う人も多いだろう。敗戦後、旧軍部が解体されたため、海外に残された軍人の引き揚げ業務は旧厚生省が引き継いだ。
310万人もの日本人犠牲者を出した戦争だけに、敗戦処理はいまだに終わっていない。海外で亡くなった240万人のうち、半数の遺骨は今も海外に残されている。遺骨を探し、良好な保存状態ならばDNA鑑定をして、遺族に返す仕事――。
現代の霞ケ関では花形ではないかもしれないが、過去の戦争と誠実に向き合うことが求められる、大事な仕事だ。厚労省の「社会・援護局」という部署が担っている。ここで、歴史に対する背信が起きた。