「コロナウイルス大流行」が貿易戦争完敗の中国にトドメを刺すか

朝鮮半島情勢にまで波及の可能性
大原 浩 プロフィール

米国は何も失っていない

さらに、1月15日に署名された合意内容には、

1.「中国政府による米国の技術と企業機密の窃取に対する取り締まりの強化」
2.「農産物の2017年(貿易戦争開始前)の水準に比べて倍以上の輸入増加」

など多数かつ重要な中国側の譲歩内容が含まれる。

特に、対米貿易黒字の縮小に向けた中国による今後2年間で2000億ドル(うち農産品は320億ドル)相当の追加購入計画は重要だ。

 

この合意に基づいて、中国は米国からの農産物の輸入を最初の1年で125億ドル、2年目は195億ドル増やすと表明した。この額(合計320億ドル)を、貿易戦争が始まる前の2017年に中国が輸入していた240億ドルに上乗せするので、輸入額は2017年当時の倍以上になる。

11月に大統領選挙を控えたトランプ氏にとって、農民票は極めて重要で、その確保の道筋をつけたのだから、上機嫌であるはずである。

それに対して、資源、エネルギー、軍備、人材その他あらゆる分野で米国に太刀打ちできない中国の「数少ない切り札」である「農産物輸入カード」をトランプ氏に献上せざるを得なかった習近平氏の機嫌が悪いのも当然だ。

その見返りに米国が提供するのは、昨年9月に発動した制裁第4弾のスマートフォンやパソコンの部品、衣類や靴といった日用品などの中国製品に課した追加関税15%を7.5%に引き下げることくらいだ。

さらに、これらの合意の実行を、監視・担保する制度も盛り込まれ、実行されなければ、合意内容は取り消される可能性がある。

忘れてはならないの、この貿易戦争を仕掛けたのは米国であり、第1弾から第4弾までの関税は米国が一方的に設定したものだ。その米国の都合で一方的に「追加」したた関税のごく一部を「微調整」するだけで、これだけの成果を得たのだ(1弾~3弾は25%の制裁関税率を堅持している)。

つまり、貿易戦争と名付けられた「実質的経済制裁」に音をあげた共産主義中国が「後生ですから緩和してください」と泣きを入れて、「貢物」を差し出したのに対して、トランプ政権は「制裁のごく一部の緩和」で応じたのだ。

このような見事な「トランプ流交渉術」には驚かされる。1月16日の記事「勝つためには手段を選ばない男・トランプとは何者か…ルーツを探る」で述べた様に、基本的に政治家というよりもビジネスマンであるトランプ氏は、面子よりも実利を大事にする。

だから、習近平氏の面子を保つ手伝いをすることなど朝飯前であるし、それによって「大きな実利」を手に入れたわけである。