「あの検査を受けて以来、生活は想像を絶するほどに激変しました。自分の意思とは関係なく、毎日大量の失禁が起きて、1日に尿漏れパッドを10回以上交換するのです。
『しばらく経てば、改善する』という医師の言葉を信じて待ちましたが、あれから1年経っても治らず、家族からは『臭う』と疎まれる。病気を予防するために検査を受けたはずなのに、なぜこんな目に遭うのかと、今も苦しみ続けています」
後悔の念を滲ませるのは、山本隆さん(仮名、72歳)だ。
人一倍、健康に気を遣っていた山本さんは昨年、自治体の健康診断のオプションで、前立腺がんの有無を調べるPSA検査を受診。「がんの疑いがある」と言われ、慌てて精密検査を受けると、前立腺がんとの診断が下った。
「早く見つかってよかったですね」。そう言われて喜んだ山本さんは医師に勧められるがまま、前立腺の全摘手術を受け、その結果、重い後遺症を抱えることになってしまったのだ。
「術後、いろいろ調べると、高齢者の前立腺がんは切らずに温存するという選択肢もあった。小さながんを見つけてしまったばかりに、今のつらい生活があると思うと、悔やんでも悔やみきれません」(山本さん)
今月初め、米グーグルは、乳がんのマンモグラフィー検査で、AIが人間の医師よりも高い精度でがんを発見することに成功したと発表し、がんの早期発見に役立てるビジョンを明らかにした。
それだけ聞くと、進行がんに苦しむ人がいなくなる輝かしい未来に近づいているような気もする。
だが、病気を初期段階で見つけることには、思いがけないワナがある。