さまざまな動物がいるが、犬ほど人間にとって身近で、愛されている動物はいないだろう。深い絆でつながっている飼い主と犬の数だけ、一本の映画のようにドラマチックな物語が秘められている。
「『犬』という字は、人に一と点でできています。だから人と関わりが深い動物だと思うのです。猫も可愛いけど、けものへんですよね。犬にはつかない。人間にとって、それだけ犬は忠実だし、愛情を注いだ分、返してくれると思うんです」
愛犬への溢れる思いをそう語るのは、歌手の氷川きよしさんだ。氷川さんはもともと、犬はむしろ苦手だったという。
「小学校6年生のとき、友達の飼っていた犬に右手を噛まれて3針縫いました。今でもその傷は残っています。デビューの後に、『氷川きよしの犬嫌いを直そう』という企画まであったほどです」
転機は'05年、旅番組のレギュラーを務めていた時。番組でペットショップを訪問した際、たくさんいた子犬たちのうち、一匹だけが氷川さんのほうを見つめていて、目が合った。茶色いオスのダックスフントだった。
「初めて恐怖感ではなく、犬を『可愛い』と思いました。今思えば、それぐらい顔が好みだった」
氷川さんが「欲しい」と呟いたところ、番組がプレゼントしてくれることになり、氷川さんは「ココア」と名付けた。
「でも、当時の僕のマンションはペットNGで。ディレクターさんの自宅で飼ってもらって、僕が会いに行く生活をしていました。その後、ココアのためペット可のマンションに引っ越したのです」
待ちに待った愛犬との共同生活が始まった。その矢先に悲しい事実が判明する。ココアは先天的に眼を患っていた。
「散歩に行くと溝に落ちたり、電柱にぶつかったりするので、変だなとは思ったんです。検査にいくと獣医から眼の病気だと言われ、2歳のときには『全盲』と告げられました。ショックでした」