2020.01.28
# 海 # 環境

世界平均の27倍!日本近海で急拡大するマイクロプラスチック汚染

なぜ汚れたのか?どう清浄化するか?
蒲生 俊敬 プロフィール

南より北の汚染レベルが高い太平洋

磯辺教授らのグループは、2016年から環境省による環境研究総合推進費の助成を受けて、日本列島から南極海にいたる、広大な西太平洋を縦断するコースで、マイクロプラスチック調査に着手した。そして得られた実測データに基づき、太平洋におけるマイクロプラスチックの分布を再現、かつ将来予測のできる新しい海洋モデルを確立した(Isobe et al., 2019)

図6に示した、太平洋全域にわたるマイクロプラスチック分布を示す2枚の図は、このモデルが再現した2016年8月のもの(実測データとよく一致する)と、モデルが予測した50年後(2066年8月)のものを示している。

図6 海洋モデルによって描かれた、2016年8月、および2066年8月の太平洋におけるマイクロプラスチック濃度の空間分布(Isobe et al. (2019)より)
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これらの図からまずわかるのは、マイクロプラスチックが多いのは日本近海だけではなく、その東側の北太平洋へと広がっていることだ。これは、黒潮を含む北太平洋亜熱帯循環流に乗って、東向きにマイクロプラスチックが輸送されるからであろう。

図5と図6を見比べれば一目瞭然だが、プラスチックごみ排出量の多い国々にはさまれた北太平洋は、そうでない南太平洋に比べて、マイクロプラスチック汚染のレベルが明らかに高い。

モデル予測によれば、北太平洋におけるマイクロプラスチックの存在量は、現在に比べて2030年頃にほぼ2倍、2060年頃(図6の2番目の図)にはほぼ4倍にも増加するとのことだ。

そのとき北太平洋は、どんな海に変わってしまうのだろうか。海洋の生命活動に支障は出ないのか。水産資源は大丈夫だろうか。

……心配は尽きない。

マイクロプラスチックの恐ろしさ

マイクロプラスチックの多くは、いつまでも海面付近にとどまっているわけではない。

有機物が付着し、重くなって沈降したり、あるいは動物プランクトンや稚魚によって誤食され、海洋の物質循環に繰り込まれて沈降していく。いわゆる“マリンスノー”となって、深海底へと降り積もっていくのだ。

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100年前の海には、マイクロプラスチックなどひとかけらも存在しなかった。ところが今や、マイクロプラスチックフリーの海は、世界中のどこにもないらしい。

南極大陸に近い南極海でも、世界最深のマリアナ海溝チャレンジャー海淵の海底(最深点の深さ1万920m)でも、すでにマイクロプラスチックが見つかっているのだから(Isobe et al., 2017; Peng et al., 2018)

 

海洋全体にわたるマイクロプラスチックの詳細な分布と動態の解明が望まれるが、そのための観測データは、空間的にも時間的にも、まだまだ圧倒的に不足している。

拙著『太平洋 その深層で起こっていること(講談社ブルーバックス)でも紹介したように、マイクロプラスチックの恐ろしさは、もともとのプラスチック製品に含まれていたさまざまな添加物に加え、マイクロプラスチックとなって海面付近を漂ううちに、PCBなど海面に浮かぶ人工の有機汚染物質を吸着して集めてしまうことにある。

100年後のきれいな海のためにできること

マイクロプラスチックを誤食した生物に有害物質が蓄積し、その蓄積度は、食物連鎖の上位にくる大型魚ほど当然、高くなる。まだ大きな問題にはなっていないが、「魚介類を食べても大丈夫か?」と不安を感じる人が増えている。

しかし、マイクロプラスチック汚染と水産生物資源に関わる研究はまだ始まったばかりで、将来を正確に予測するにはいたっていないようだ。

すでに外洋に拡散してしまったマイクロプラスチックを回収することは不可能だ。これ以上、マイクロプラスチック問題を拡大させないための方策、すなわち図5をできるだけ白色に近づけようとする取り組みが、毎年のようにG7サミットなどを通じて国際的に検討されている。「脱プラスチック」の動きは企業にも広がりつつある。

だが、最も重要なのは、われわれ一人ひとりの自覚ではないだろうか。

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一人でもできることがある。プラスチックごみは決して出さない。再使用またはリサイクルする。そして道ばたや海岸で、まだ形のある(劣化して破砕される手前の)プラスチックごみを見つけたら、ぜひ回収して、正しい廃棄ルートに乗せる。

それだけでも、必ず事態は好転し、100年後のきれいな海を子孫に残すことにつながるはずである。

【引用論文】
Isobe, A. et al. (2015): East Asian seas: A hot spot of pelagic microplastics. Mar. Poll. Bull., 101, 618-623.
Isobe, A. et al. (2017): Microplastics in the Southern Ocean. Mar. Poll. Bull., 114, 623-626.
Isobe, A. et al. (2019): Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066. Nature Comm., 10, doi: 10.1038/s41467-019-08316-9.
Jambeck, J.R. et al. (2015): Plastic waste inputs from land into the ocean. Science, 347, 768-771.
Peng, X. et al. (2018): Microplastics contaminate the deepest parts of the world’s ocean. Geochem. Persp. Let., 9, 1-5.

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