保阪正康「人生最高の10冊」は?近代国家の発展の裏を描いた作品たち

犠牲になった名もなき人たち
保阪 正康 プロフィール

宮本常一の『忘れられた日本人』が描くのは、その少し後の時代、昭和前期の庶民の生活ですね。こちらは貧しさよりも、さまざまな村の慣習など、彼らがどのようなことに生活の主軸を置いていたかが描かれます。

私は大学では社会学を専攻しましたが、宮本常一に加えて柳田國男や谷川健一など、民俗学の本を読むのも好きでした。そうした本を読む中で、ある仮説を立てました。

近代日本のナショナリズムは「上部」と「下部」のふたつがあると。「上部」のナショナリズムは国益の守護とか、政策の決定者の集団が持っているもの。一方、「下部」のナショナリズムは、生活基盤をどのように維持するかとか、よりミニマムな共同体の倫理です。

 

近代の日本は、「上部」のナショナリズムが「下部」のそれを押さえつけ、「国のために」という考えを浸透させてきた。このことは『ナショナリズムの昭和』という本に書きましたけど、『忘れられた日本人』で記録されたような、各地にあった共同体の素朴な伝統がつぶされることで、日本が発展したことを忘れてはいけないと感じます。

宇宙が変えた人生観

宇宙からの帰還』は、地球を離れた経験を持つ宇宙飛行士たちへのインタビューがまとめられています。

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外から地球を見たことで、彼らの人生観が大きく変わったことが語られますが、取材が綿密で、自分も宇宙空間に行ったように思わされます。こういう本が出たことは海外でも注目されましたし、世界のノンフィクション史に残る凄い本だと思います。著者の立花さんが私と同世代であったことへの、驚きと誇りも大きかったですね。

湛山回想』は、言論人として長年活躍を続けた石橋湛山の自伝です。「女性の権利を拡張すべき」、「植民地支配をやめるべき」など、湛山は明治の終わりから誠実に意見を発表し続けました。戦後に政治の世界でのし上がっていきますが、言論人としては生涯ぶれなかった点が立派です。