葛飾北斎の筆による岩松院本堂天井絵鳳凰図(長野県)。絵の修復に膠が使用されている。

国宝日本画も修復できない?消えゆく伝統の画材、三千本膠(にかわ)

伝統の「美」を守るために

日本画に必要不可欠な膠(にかわ)が手に入らない?

一昨年、アメリカのニューヨークに住まう日本画家の原田隆志・佐藤可英夫妻から、「日本画の材料のひとつである、《三千本膠》が手に入らない」と聞いた。

 

膠は《にかわ》と読む。牛やウサギのような獣類の骨・皮などを水で煮た液を乾燥させて固めたもので、ゼラチンが主成分。ボンドのような接着剤だと思っていただければ良い。

日本画では絵具と混ぜ合わせたり、修復作業に使われたりしてきた。絵画以外にも、古来から武具・特に刀剣の「拵」(こしらえ)=外装を作るときに使用されてきた。習字の墨も煤煙と膠を混ぜ合わせ練り上げて固める。楽器を製造するにも接着で膠を使ってきた。

しかし、この膠がほとんど生産されなくなったために困っているという話なのだ。また、この三千本膠が品質にも波があり、成分表示もいいかげんなものが多いのだという。

古典的な日本絵画は岩絵具や臙脂や藍などを使って絹本や紙本に描いてきた。岩絵具は鉱石を粉砕し粉末にした顔料である。それを膠水で溶いて絵具として用いる。つまり、書や日本画、版画にとっては、膠が絶対必要な画材のひとつといってもいい。

今日でも日本画専攻をした画家の80%が膠を使用していると、日本画家で武蔵野美術大学特任教授である山本直彰氏が言う。

膠が無ければ日本画の修復もできない

冒頭の話に戻る。海外で暮らしていると、日本の画材がなかなか手に入らないのだろうから、帰国したら買って送ってあげよう――わたしはそう考えた。

わたしのパートナーは中上清という現代美術の画家で、彼のスタジオでも琥珀色をした粒状の膠が瓶の中にぎっしり詰め込まれていたのを見た記憶がある。

「膠があったよね?」と、中上に質したら、美大の若い日本画科の子が欲しがっていたので、あげてしまったという。日本製ではなく、フランス製のウサギ膠だったらしい。

わたしは、そこで考えこんでしまった。

 今も日本画家はたくさんいるし、日本独自の画法の材料が手に入りにくくなっているということは、画家にとって大変困った事態ではないか? 描くだけではない。日本画の修復にも困るのでは? たとえば、国宝級の絵画が劣化した場合どうするのだろう? こうした危機感を誰か持っているのだろうか?

高松塚古墳やキトラ古墳で発見された壁画は1300年近くも土中にあったために、閉鎖空間で保存されてきたのだが、この発見発掘により、多くの人が入り込み、環境変化によりカビが生えてしまった――悪夢がよぎる。

日本は海外に比べて文化財保護や修復の意義といったことを考慮せず、その技術も不安定なのかもしれない。実際、神社仏閣の修復で目を覆いたくなるほどの彩飾を何度か見たことがある。昨日描いた様にケバケバに彩色された古物に、どんな価値を見出せばよいのか。