イラスト:北野希織

「セクハラ罪という罪はない」と思う人は、『自由論』を読みましょう

功利主義者よ、汝の隣人を愛せ

誰でも知っているミルの功利主義

「満足した豚より不満足な人間の方がいい。満足な愚者より不満足なソクラテスの方がいい」

これはジョン・スチュアート・ミル『功利主義』という本の有名な一節です。1964年の東京大学卒業式で、大河内一男総長が言ったとされる「太った豚より痩せたソクラテスたれ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。参考にしたのはミルの言葉でした。当時は「さすが、東大総長はいいこと言うな」と思ったものです。

 

しかしながら、年を取ると煩悩は増えていく一方です。ついに60歳を迎えた凡人の私は「痩せたソクラテスより太った豚でいいから、給料たっぷりもらって愛人3人と付き合えたらな~」なんて思ってしまいます。こんなこと、周囲には絶対言えません。

その点、自分の信念を死ぬまで貫き通したミルは立派です。彼の主張は「危害原理」に集約できるでしょう。危害原理とは、「自らの望む行為が他者に危害を加えない限り、人間は自由に行動できる」というものです。子供の頃、誰しも両親から「他人に迷惑かけちゃいけませんよ」と教えられた経験があると思います。

孤児パトリックを殴った救貧院の職員に対して反論するミル

しかし今日では当たり前になっているこの原理も、ミルが生きた170年前はそうではありませんでした。平気で他人に迷惑をかける人や、自分の権利ばかり主張し他人の自由を認めない人がさぞ多かったことでしょう。そのような時代に「危害原理」なんて言うのは勇気が必要です。

ディケンズの名作と哲学書の融合

毎度まんが学術文庫を企画しようとすると、古典をどうやって漫画にすべきか悩んでしまいます。やはり今回の『自由論』もそうでした。ミルが『自由論』で主張している内容は、今日では当たり前と考えられています。そうなると、現代を舞台にしても陳腐な漫画になる可能性が高い。両親が子供に言い聞かせるようなことを漫画にしても、いまいちインパクトに欠けます。

そこで、ミルが生きていた約170年前の時代にタイムスリップすると決めました。当時ミルが住んでいたイギリスは、まだまだ不条理が蔓延する社会でした。時代の改革者・ミルが「こんな社会はおかしい!」と指摘し、次第に人々の「自由」が保証されていく……このように物語が展開すれば、読者の皆様も楽しく読めるのではないでしょうか。

ミルという人はあまり豊かではありませんでした。8人の弟妹の面倒を見なくてはいけなかったからです。また彼は連れ子のいる女性と結婚していますが、血がつながっていない子供をとても可愛がったそうです。「貧しいながら他人の子供を引き取るなんて、人格者もいるものだ」と考えていたら、「疑似親子」という設定を思いつきました。