爪切男著『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)が賀来賢人さん主演でドラマ化。これは、もともと日刊SPA!で連載されていたエッセイ「爪切男のタクシー×ハンター」から恋愛エピソードを抜粋し再編集されたものだ。

物語は、6年同棲していた彼女・アスカとの別れの場面から始まり、「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね」と憧れのクラスメイトに言われたことや、出会い系サイトで知り合った車椅子の女性との初体験、カルト宗教を信仰する初めての彼女……など様々な女性との出会いがユーモラスに描かれる。

つい吹き出してしまいそうな筆致に見のがしそうになるが、そこで起こる数々の出来事それだけを見ると壮絶なものばかりである。筆者は幼い頃に母に捨てられており、厳しすぎる父のしつけを超えた暴力も受けていた。大人になってからも、心の病と借金を抱えた彼女を支えながら、日々激務をこなし、彼自身も精神的に不安定になっていく。

爪氏は「僕はただ面白い話を書きたかったわけではないんです。僕の半生の闇深い部分を伝える手法のひとつとして、ユーモラスな表現を選んだだけ」と語る。

彼がそこまでして自身の半生を描こうとしたのはなぜなのか。そこには彼の幼少期から今に至るまで埋められないもどかしさのようなものがあった。

爪切男(つめ・きりお)'79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。'14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』がそこそこ話題となる。'15年に頒布したブログ本も、文学フリマではそこそこの行列を生んだ。現在、『日刊SPA!』で連載中。 同連載を大幅に加筆修正したうえで改題した本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。。Twitterアカウント@tsumekiriman

アスカと別れて、母を探し始めた

爪氏が自身の過去を書くようになったのは、アスカと別れてTwitterの世界に足を踏み入れてからだ。

「まだアスカと別れる前、彼女がTwitterばかりやっていたんですよね。当時僕は『つまんなそうだな』なんて悪口言っていたけど、彼女と別れてすぐにアカウントを登録しました。実はずっと気になっていたから……。

そしたら、昔の友達がいっぱいいることに気づいた。一緒に同人誌『なし水』を作ることになったこだまさんやたかたけしさんも、以前一緒にインターネット大喜利をしていた仲です。名前を変えていなかったのですぐに見つけた。みんな自分たちの夢を追っていて、その姿を見て僕も何かやりたいな、と。そこでとにかく文章を書いてみようと、ブログを始めてみたんです」

アスカさんと付き合っていた頃の写真。ふたりで暮らしたアパート、朝ごはん、いつものテーブル、寝起きを撮られたところ、誕生日祝い……こんな6年同棲した日々が、エッセイでは言葉で綴られる。そこには日常の中の喜びが見えてくるけれど 写真提供/爪切男

爪氏がブログにつけたタイトルは「(母の実名)と(兄の実名)を探しています」。そして彼は「まさかの4記事目で本当に母が見つかった」と笑う。

「当時母は精神的な病の症状が激しくて、いろんな組織にインターネットで嫌がらせを受けてると信じて1日中自分の名前をエゴサーチしていたらしくて。そのおかげで僕のブログにたどり着いた。ある日、非公開コメントに『私はあなたの母親かもしれない』と投稿があったんです。そして僕が本当の息子か確かめるために10問のクイズを出された。

『あなたは生まれたとき高熱で死にかけた、嘘か本当か』など母じゃないと知らないような問題だったので、僕も信じました。中にはひっかけ問題もあって、『母親の家系は臓器の病気にかかっている、それは、胃、膵臓、心臓、どれか』って。これ正解は『腎臓』なんですよ。だから僕は『そこに答えはない、正解は腎臓だ』って」