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愚直な「地球温暖化対策」が「7800万人」を飢餓に追い込む理由

明確な解決法はいまだ遠く……
もう目の前に突きつけられている「地球温暖化問題」。早急に対策をするべき、というのは否定の余地がないところですが、このままの対策だと今度は「飢餓」という別の問題が浮上してしまうかもしれません。

立命館大学の長谷川知子准教授は、シミュレーションモデルを使って温暖化対策によって生じる諸問題を明らかにしようとしています。

(立命館大学研究活動報「RADIANT」より転載)

「エコなエネルギー」が「食糧」を奪う

今、世界を挙げて地球温暖化対策に取り組んでいるが、効果をあげるのは容易ではない。なぜなら地球温暖化の影響は多岐にわたるため、一つの対策が意図せず別の分野に悪影響を及ぼすことがあるからだ。

2015年12月のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で「パリ協定」が採択され、世界の平均気温の上昇を産業革命以前の2℃未満に保つこと、さらには1.5℃以下に抑えるよう努力することが約束された。

「この野心的な目標を達成するためには、再生可能エネルギーを大量導入することによるエネルギーシステムの転換だけでなく、さらに踏み込んだ対策が必要になるといわれています」と長谷川知子は解説する。

たとえばバイオエネルギーの活用も対策の一つだが、これには大きな問題がある。それはバイオエネルギーの原料となる作物を育てるために広大な土地が必要なことだ。

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「それが食料生産のための土地や水資源と競合し、食料価格の上昇や飢餓リスクの増大をもたらす危険性が指摘されています」と長谷川。

ではいったいどうすればいいのか? 明確な解決策は見出されていない。

7800万人が「温暖化対策」で飢餓に陥る

長谷川はシミュレーションモデルを用いて気候変動によってもたらされる問題を明らかにし、この難題に答えを提示しようとしている。

その一つとして、国際的に評価されている統合評価モデルや世界農業経済モデルを使い、2050年までの気候変化と温室効果ガス(GHG)排出削減策が食料安全保障に与える影響を評価した。

 

長谷川によると国際的に信頼性の高いシミュレーションモデルにはいくつかあり、日本の統合評価モデルAIM(Asian-Pacific Integrated Model)もその一つだ。

これは、将来の人口とGDPを変数として気候やエネルギー、経済システム、食料需給、土地利用、GHG排出量、GHG排出削減量などを推計するモデルだという。

長谷川は今回の研究で、AIMに加えて7つのモデルを使い、気候変動やGHG排出削減策が農作物の生産や消費、食料価格に及ぼす影響を評価した。複数のモデルを使うのは世界初の試みだ。これにより将来推計の不確実性が考慮でき、より強固な推計が期待される。

気候変動影響と温暖化排出削減策を実施しないベースラインケースでの(a)飢餓リスク人口と(b)一人当たりの食料消費カロリー。
3つの社会経済条件(SSP1~3)及び異なる気候変動影響とGHG排出削減シナリオにおける(c)飢餓リスク人口と(d)一人当たりの食料消費カロリーへの影響。(c)、(d)の数値はベースラインからの変化量を示す。

RCP2.6 …… 2℃目標の達成に相当する強いGHG排出削減策を実施する場合
RCP6.0 …… GHG排出削減策を実施せず温暖化が進むシナリオ

シミュレーションを行った長谷川は、いくつかの興味深い結果を導き出した。

特に衝撃的なのは、食料安全保障に配慮せずにGHG削減策を実施した場合、2050年時点でGHG対策を何も講じない場合よりも食料消費量が世界全体平均で5%程度低くなり、2050年には飢餓リスク人口が7800万人も多くなるという推計だ。

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