2020年の最大リスク、米中「3つのブラックスワン」の危ない正体

予想を上回る衝撃が世界に走る
広木 隆, マネクリ プロフィール

3.トランプ大統領の再選ならず

今年7月で12年目に入ろうという長期の景気拡大と、現職の圧倒的有利さを考えればトランプ大統領の再選がメインシナリオになる。民主党の候補が絞り切れず、かつ、いずれも一長一短あり、トランプ大統領と一騎打ちで勝てるようには見えないこともトランプ再選の可能性を高くしている。

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しかし、トランプ氏にも弱みがある。それは前回支持してくれた人々に報いていないという点である。ラストベルト(錆びた地帯)と呼ばれる中西部の景況感はひときわ悪化している。そもそも保護主義ではアメリカの製造業は守れない。中西部の製造業は衰退するべくして衰退しているのであって、トランプ氏の政策で救えるようなものではない。それが4年たって白日の下にさらされたとき、前回トランプ氏を支持したひとがまた彼に投票するか分からない。

ミシガン州、ウィスコンシン州、アイオワ州、ペンシルベニア州など中西部のこれらの州はスイングステート(揺れる州=激戦州:両党支持率が拮抗し、選挙毎に勝利政党が変動する州)でもある。前回は総得票数ではヒラリー・クリントン氏がトランプ氏を上回ったものの、このスイングステートを抑えたトランプ氏が大統領選を制した。

より重要なのはsuburb すなわちsub-urban(郊外)に住む中間層の投票行動だ。2018年の中間選挙では民主党が躍進したが、その原動力となったのがこのsuburb居住の中間層による民主党支持という積極的な投票行動であった。この勢いが依然として継続していることは昨年11月のバージニア州議会選挙で明らかになった。バージニアは共和・民主の勢力が拮抗するパープル・スイングステートだが、州議会選挙で民主党が28年ぶりに州議会両院で多数党の座を奪還した。

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民主党候補選びは予断を許さないが、おそらくジョー・バイデン氏が候補に選ばれるだろう。バイデン氏ならラストベルトの製造業に従事する白人票をトランプ氏から奪う可能性は高い。バイデン氏はラストベルトの街、東部ペンシルバニア州スクラントン生まれだ。彼には労働者階級のために戦ってきたというイメージがある。加えて、初の黒人大統領(バラク・オバマ氏)に仕えた副大統領だ。黒人票も入る。これまで黒人層の過半数の支持なしに党の指名を獲得した候補者はいない(Financial Times エドワード・ルイス氏)。

 

しかし、バイデン氏が仮に民主党候補になったとして、トランプ大統領に勝てるだろうか?トランプ氏から”Sleepy Joe(寝ぼけたジョー)”と揶揄されるように、インパクトが薄い。しかし、ウルトラCがある。副大統領候補にバラク・オバマ前大統領のミッシェル夫人を擁立するという案である。昨年11月に刊行されたミシェル・オバマの回顧録『Becoming(ビカミング)』は全世界で1000万部以上売れている。ツイッターのフォロワー数は1330万。昨年2月のグラミー賞授賞式のステージにはレディー・ガガとジェニファー・ロペスと手をつないでサプライズで登場し、オーディエンスから総立ちで歓声を送られた。ミシェル人気は絶大である。現在はミッシェル側が固辞していると伝わるが、今後予備選を通じてバイデン氏の可能性が高まればわからない。頭の片隅に入れるにはじゅうぶんな材料だ。

トランプ大統領の弱みとして前回支持してくれた人々からの票が今回はそれほど獲得できないのではないか、と述べた。そのひとつがラストベルトの人々であり、もうひとつがキリスト教福音派である。

先般のイラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官殺害はアメリカ国民のおよそ4分の1を占めるアメリカ最大の宗教勢力、キリスト教福音派へのアピールだったのではないかと考えている。彼らの信仰の柱とも言えるのが「ユダヤ人国家イスラエルは神の意志で建国された」とするイスラエルへの支援だ。

キリスト教福音派は前回の大統領選でトランプ氏当選の原動力となった。その見返りが、エルサレムの首都認定と米国大使館の移転だ。福音派との蜜月関係の維持が、再選を狙うトランプ大統領の必須の課題であることは明白である。ところが、福音派の有力誌『クリスチャニティー・トゥデイ』は先月掲載した社説で、弾劾訴追されたトランプ氏の罷免を主張したのである。同誌は、トランプ氏が政敵の評判を落とすために外国首脳に働き掛けたことは「憲法違反というだけでなく、極めて不道徳だ」と批判した。これにトランプ大統領は焦りを感じたのだと推測される。

大統領選イヤーの今年最初のトランプ氏の集会は、フロリダ州マイアミの教会でキリスト教福音派を集めて開かれた。その集会が開催されたのが3日、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したのと同日である。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、イランとの対立の構図を際立てることで、イランと敵対するイスラエルへの肩入れ姿勢をアピールしたのではないかとも勘ぐれる。

イランとの話は一旦脇に置くとして、ポイントは福音派の有力誌『クリスチャニティー・トゥデイ』のトランプ批判だ。もちろん福音派の中にもいろいろな派閥(?)があるのだろうが、『クリスチャニティー・トゥデイ』の主張は福音派の人々に一定の影響を与えるだろう。トランプ大統領の弾劾は成立せず罷免はされない。しかし、弾劾訴追そのものは福音派からの票の獲得にとって明らかに障害となるだろう。ここが「トランプ弾劾」を評価する際の盲点である。

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