2020年の最大リスク、米中「3つのブラックスワン」の危ない正体

予想を上回る衝撃が世界に走る

1.香港デモ抑止に中国武力行使

香港のデモに参加している人々には、おそらく自覚がないだろうが、彼らの行為は資本主義に対する反抗である。この見方が正しいとすれば、彼らは無意識のうちに(中国の表向きのイデオロギーである)社会主義を礼賛していることになる。強烈なアイロニーである。

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発端は確かに逃亡犯条例だった。一国二制度を維持せよ、香港の民主化を守れというのがデモのスローガンだった。自由を愛する国際都市・香港の市民が、監視国家・中国に反発を強めている‐そんな構図に見えた。しかし、これほど長期化かつ過激化していることを考えれば、この「反乱」の本当の理由は、経済格差拡大による社会への不満であり怒りであろう。香港の不動産価格の高騰は世界でも群を抜き、一般大衆はまともな住居で暮らせなくなっている。所得の中央値に対する住宅価格の中央値の比率は20倍を超え、2位のバンクーバーに倍の差をつけている。住宅取得が圧倒的にunaffordableなのだ。20倍ということは、例えば年収が500万円なら住宅価格は1億円するということだ。これでは誰もまともな家を持てない。

 

デモが長期化・過激化することで香港経済は低迷し、不動産価格も下落している。そうした意図が群集心理にあるとは思えないが、結果的に彼らの行為は自らの不遇を改善に向かわせようとする方向に一致している。と同時に、デモによる破壊行為は富の蓄積の結果である不動産価値を棄損させ、一部の資本家だけが占有している富を暴力によって破壊しているとも映る。

象徴的だったのはHSBCの一部店舗も破壊対象にされたことだ。植民地時代の宗主国、英国資本の巨大銀行である。香港島のビジネスの中心地、セントラルにあるHSBCの香港本店ビルは52階建ての威容を誇りランドマークとなっている。その1階部分は吹き抜けになっていて、ビクトリア・ピークからビクトリア・ハーバーに流れ込む龍脈(竜の通り道)を開けている。この建物を設計した気鋭の英国人建築家ノーマン・フォスター男爵は、ちゃんと中国の風水を取り入れたのだ。香港上海銀行のビルは西洋と東洋の融和の象徴である。それはまた、英国の植民地支配の象徴であるとともに、その支配下で自由な発展を謳歌した香港経済成長の証であった。英国資本と、さらに言えばアングロサクソンの資本主義とインターナショナルな香港の「立ち位置」がうまく融和した結実であった。しかし、その古き良き時代の象徴であるHSBCをもデモ隊は破壊対象としたのであった。それが核心である。アングロサクソン資本主義とグローバリズムの否定にほかならない。

いくらデモや破壊行為を繰り返しても格差は埋まらない。しかし、デモや破壊行為で経済の足を引っ張り、富裕層・資本家の富を減じさせることで「方向」としては<結果的に>格差縮小に向かわせようとしている。より格差のない社会、より平等な社会を志向している。つまり社会主義礼賛である。

自由放任な資本主義は必然的に勝者と敗者、「持てる者」と「持たざる者」を生む。近年の資本主義はWinner takes all(勝者総取り)だからますます両者の格差は拡大する。行き過ぎた資本主義の帰結が、いま香港で起きていることかもしれない。

マルクスは『資本論』の結論として、資本家による搾取は労働者の反乱を招くと予言した。実際には労働者も豊かになったため反乱は起きず、マルクスの予言は外れたといわれてきた。しかし、いま香港で起きていることはマルクスの予言通りではないか。マルクスの予言が、仮にも共産主義を標榜する中国の領土の一部で起きている。なんというアイロニーだろう。

今後の展開についてふたつのシナリオがある。ひとつは中国政府が静観を続けるというシナリオだ。香港の暴動の深層的な要因が行き過ぎた資本主義の歪みにあるなら、それこそ中国には好都合である。レッセフェールではうまくいかないことの証拠だから、国家資本主義、いや管理国家&監視社会資本主義が有効なのだと主張できるだろう。よって、しばらく放置して民衆が飽き、疲れるのを待つというスタンスをとるだろう。

もうひとつのシナリオは、香港の経済価値の低下が看過できず、また国家としてのコントロール不全をいつまでも世界にさらしておけないと強硬策を強める可能性だ。その場合、中国政府に意図はなくても偶発的に大きな衝突が起きないとも限らない。実際にはどうあれ、中国が武力によってデモを鎮圧した(とみられるような)事態になれば、「天安門の再来」である。

それは「ブラックスワン」だ。実際に起こる可能性は非常に低い。しかし、万が一、起きれば尋常でない衝撃が世界に走るだろう。