江戸の大火に襲われたオランダ商館長ワーヘナールの手紙から伝わるもの

明暦の大火の混乱と日本人の強い責任感
フレデリック・クレインス プロフィール

役人への感謝

全部で4頁にまとめられた避難経験の中で、長崎で留守を預かっていた商館員にワーヘナールがまず伝えたかったことは、江戸の混乱、危機一髪の脱出、大火後の江戸の悲惨な姿、そして仲間であった長兵衛の死であったように思える。

 

ところで、もう一方のオランダ東インド会社総督に宛てた10月12日付の手紙を読んだ時に、気になる記述があった。そこにも長兵衛の死のことが書かれていた。「料理人でありながら、時々通訳もやり、非常に能力が高く、有用な人材だった」長兵衛を褒め称え、彼の死を大きな損失として嘆いている

そして、自分たちも長兵衛と同じ運命を辿るはずだったとワーヘナールは続ける。助かったのは奇跡であり、役人たちと通詞たちのお陰であったという。ワーヘナールはさらに次のように記している。「役人たちと通詞たちの助けによって、前述のような普通でない方法で逃げ道を探し、力づくで突破した。そうでなければ、我々は前述の哀れな避難民と共に通りに立ち止まったまま、確実に死んだだろう」。

この文章からは、屋根を登るなど道なき道を通って、オランダ人の避難を先導したのが、同行していた長崎奉行所の役人たちだったことが分かる。役人頭の嘉右衛門が「とても気さくで慎み深い人」であるとワーヘナールは書いている。ワーヘナールの命が助かったのは、この役人頭のおかげだった。

同じ手紙の別の箇所でも、日本人が自身の命を顧みず一晩中ワーヘナールの現金の入った書箪笥を守りながら街を逃げ回ったと書かれている。書箪笥は次の日に無事にワーヘナールの手元に届けられた。職務に対する日本人特有の責任感の強さが表れている。

以上のように、日本人の役人は自分の身をもって、ワーヘナールとその財産を守った。我々が今ワーヘナールの日記を読むことができるのは、この無名の長崎奉行所役人のおかげである。

*クレインス桂子は本稿を校閲し、読みやすいものにしてくれた。ここに厚く感謝を申し上げる。

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