2020.01.18
# ナチス

ヒトラーを「左翼」「社会主義者」と見なしてはいけない理由

安易なレッテル貼りの危うさ
田野 大輔 プロフィール

なかでもよく知られているものとして、労働者にも手の届く格安の乗用車として開発されたフォルクスワーゲンや、労働者の余暇を充実させる目的で歓喜力行団が提供した安価なパッケージ旅行が挙げられる。

フォルクスワーゲンに試乗するヒトラー(1938年5月)〔PHOTO〕Gettyimages

そうした(社会的平等をめざすという意味で)「社会主義的」な政策が導入された背景には、労働者を懐柔して階級闘争から引き離し、格差のない「民族共同体」に統合しようとするねらいがあった。社会・経済的に恵まれない労働者層に手を差し伸べ、彼らを称揚して誇りや自尊心に訴えるとともに、ある程度の実質的な利益を提供し、将来の豊かな生活を期待させることで、体制への順応を促進しようとしたのである。

 

効果が薄かった「社会主義的」政策

だが労働者を褒め称えるプロパガンダや「社会主義的」と言えるような政策も、実際の生活を向上させるまでにはいたらず、「民族共同体」のスローガンとは裏腹に、社会対立や不平等の是正も進まなかった。

ドイツ社会の構造は1930年代を通じてほとんど変化せず、労働者層の割合は依然として60%程度で、景気上昇によって恩恵を受けた他の社会層と比べて、相変わらず不利益を被っていた。賃金は上がらず、消費は冷え込み、物不足が深刻化して、配給制まで敷かれていた。象徴的なことに、フォルクスワーゲンは市場供給がはじまる前に生産が中止され、大型客船でのクルーズ旅行も労働者には高嶺の花のままだった。

関連記事