人生に詰んだ元アイドルがどうしても伝えたい「アラサー女子の叫び」

赤の他人のおっさんと住んでみた結果…
大木 亜希子 プロフィール

姉は私を心配し、いくばくか家賃を払いそこに住まわせてもらえば良いと言う。

「ササポンは、『THE・無害』って感じの人」

姉は彼の人柄についてそれしか説明をしてこないが、一般的に考えて、それってどうなのだろうか。

齢29になるというのに、おっさんと住むほど私は落ちぶれていないと思い、最初は頑なに拒否していた。

しかし、姉は「今のお前には話し相手が必要だ」と断言する。

その迫力に押し切られるかたちで、私は彼女の助言通り“ササポン”と共に暮らすために都内某所の一軒家へ引っ越しを決意した。

今思えば、半ば人生がヤケクソだったのかもしれない。

 

私は「世間の常識」に縛り付けられていた

中肉中背、どこにでもいるような背格好でメガネをかけている。

平日はスーツ。休日はステテコ。

そんな彼と実際に暮らしてみると、興味深い点がたくさんあった。

他人同士が共に暮らすのであれば、時にウッカリと相手に踏み込んだ発言をしてしまったり、会話のペースを無理に合わせたりする必要がありそうなものである。

しかし、基本的に彼は、私に興味を示さない。だが、無愛想というわけでもない。

恋人でもない家族でもない我々は、互いに阿吽の呼吸で風呂を沸かすタイミングをフォローしあい、毎朝ゴミ捨てをどちらが行うか淡々と話し合って捨てる。

ササポンは3階に自室があり、私は1階に6畳の自室を構え、共有スペースである2階リビングの窓が汚れてきたら、雑巾を使い協力しながら掃除をする。

「ササポン、お饅頭食べますか?」

夕食後、私がさりげなく人から貰った土産物の饅頭などを勧めることもあるが、彼はユルユルとほうじ茶をすすりながら、ゆったりと頬張っている。

そして、食後にリビングに設置されたピアノで得意のショパンの楽曲を何曲か弾いたあとは、すみやかに自室で就寝してしまう。

必要な時だけ集合し、必要なときだけ協力しあい、あとは一切干渉せずに暮らす我々の生活は限りなく楽で、奇妙な絆が生まれている。

こうした日々のなか、私はふと気がついたことがある。

それは、これまでの人生で、私がいかに「世間の常識」というものに縛り付けられた生活をおくっていたかということだ。