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便利だった乗換案内機も無くなった? 近年パリから消えたもの

『物語 パリの歴史』刊行に寄せて
2000年以上にわたるパリの歴史を物語風に紹介する『物語 パリの歴史』(講談社現代新書)が刊行された。本書では、いわゆる歴史的な出来事だけでなく、著者である高遠弘美氏が自らの経験をもとに描き出す近年のパリの姿も、その魅力となっている

刊行にあたって、近年のパリで起こった変化、失われたものたちをめぐる思い出、そして、それでもなお変わらないパリの魅力について、高遠氏にお寄せいただいた。

パリの複雑な交通事情

とくに1980年代後半から1990年代半ばまで、学生のみならず一般の方をも対象にしたフランス研修旅行の引率教師兼パリ研修班責任者を務めていたため、その都度、フランス各地の学校へ赴く研修班の発着駅までの送迎を任されたことがあって、パリの交通事情にほかの方よりいくらかは詳しくなりました。リヨン駅前の広場で団体の到着を待っている旅行会社のバスの運転手の何人かとは顔見知りになったほどです。

 

ふだんメトロよりもバスを多く利用していたせいもあり、バスの路線番号もかなりの程度頭に入っていました。研修生がパリへ着いた当日か翌日に、とりあえず観光ガイドよろしくパリの案内をしたのですが、迷路のようなメトロの通路を迷わず進んで乗り換えたり、来たバスに飛び乗ったかと思うと目的地にきちんと着いたりしたので、パリが初めてという受講生の皆さんは吃驚していたようです。

そんな私ではありましたが、初めて行く場所や待ち合わせ時間が迫っているとき、どういう経路で行けばいいか知りたいと思うことはしばしばありました。そういうときは駅構内や街角に設置されていた便利な機械を頼りに目的地を目指したものです。その機械はしかし、いつの間にかパリの町から姿を消しました。

1985年から使われていた乗換案内機"Situ"

Situという名前のその機械は、フランス工業デザインの父と言われるロジェ・タロン(Roger Tallon, 1929-2011)によって発明され、1985年からパリで使われていました。ところが、その当時パリへ行っていた方々に伺っても知らない方が少なくないのです。それほど、つまり目につかないほど周囲の風景に溶けこんでいたと言ってもいいのですが、パリへ行くたびに使っていた私のような者からすると、あったことすらご存じない方がいるということが驚きでした。本文には書かなかったので、記録のために簡単に記しておきます。

街角に設置されている場合と駅構内に置かれている場合がありました。人間の身長くらいの高さのほっそりした機械か、壁にそのまま据えられている機械の二種類。壁設置型の図と操作盤の図を載せます。

壁設置型のSitu
Situの操作画面

キーボードで行き先を入力します。下に四つの選択肢があります。左から

・最も早く行く方法

・歩く距離が一番少ない方法

・メトロとRERだけ使う方法

・バスだけ使う方法

と書かれていて、その時々でこうしたいと思うボタンを押すと、回答の印字されたレシートのような紙が出てくる仕組みでした。それまであったものが忽然となくなってもなかなか気がつかないもので、少しするうちにもう見られなくなっていました。今からするとあったことが現実とは思われないくらいです。