留萌市の浜中海水浴場に体長約2m、体重1トンを超える海獣トドの死骸が打ち上がりました。
その死骸に、日本で冬を過ごし、これから北へ渡っていく海鷲たち(オオワシとオジロワシ)が群がり、ついばんでいました。
僕は3日間、朝4時に起き、その様子を撮影しました。
群がる鷲は、10羽、20羽、30羽と、どんどん増えていきました。
3日めには35羽になりました。
僕にとって、浜中海水浴場は、慣れ親しんだサーフィンパラダイスです。
そこに、国の天然記念物であり、絶滅危惧種に指定されている海鷲が35羽も集まるという奇跡が、目の前に出現していました。
僕は興奮しながら、夢中でシャッターを切りました。
海鷲たちは渡りのための体力をつけるため、休むことなく食べ続けています。
ひとつの命の死が、別の命の糧となっていく。
生命が繋がる瞬間を、僕は美しいと思いました。
4日目、撮影のため海に行くと、トドの姿がありません。
もちろん、海鷲の姿もない。
近隣の住民から苦情が入り、撤去されたのです。
トドの肉は、前日の段階で半分以上残っていました。
半分あれば、鷲が30羽以上集まろうと、まだ3日間は食べられます。
確かに、トドが食べられて血まみれでアバラ骨が見えているのは気持ちが悪いかもしれません。わかります。
苦情が入ったら、市の業務を請け負う業者さんは撤去しなければなりません。それもわかります(撤去したトドは、焼却処分、もしくは堆肥として加工されます)。
でも、寿命を終えたトドが海岸に打ち上げられるのも、海鷲たちが渡りの体力をつけるためにそれを食べるのも自然の摂理です。
撤去するときに、キムタクみたいに「ちょ、待てよ」とか、田中邦衛のように「鷲がまだ食べてるでしょうが!」とか言ってくれる人は現れなかったんでしょうね。
トドの死骸を人目につかないところに移動するだけで、鷲たちは3日できれいに食べきって、カラスたちが骨をピカピカにしてくれます。
そして、骨が土に還れば、山や海の栄養となります。
鷲を絶滅危惧種になるまで減らしたのは人間です。
その人間が、鷲のために少しだけ寄り添ってあげてもいいんじゃないか、と僕は思うのですが。