蔡英文総統「圧勝」の現場で目の当たりにした「台湾人の中国離れ」

この流れはもう止められない
近藤 大介 プロフィール

台湾で地殻変動が起き始めている

同時に行われた立法委員(国会に相当)選挙でも、蔡総統率いる民進党は、全113議席中、過半数を超える61議席を獲得して、ライバル国民党の38議席を圧倒した。中国語で言う「双贏」(シュアンイン=ダブルウイン)である。全22地域の得票数を見ても、民進党の16勝6敗で、完全に統一地方選の屈辱を晴らした。これによって、今後の台湾政局は事実上、蔡英文総統のフリーハンド状態となる。

逆に国民党は、分裂の危機に陥るのではないか。まるで中国の「ゾンビ企業」のような存在になり果てた。蔡英文総統の「勝利宣言」の前に、呉敦義(ご・とうぎ)国民党主席の辞任発表の方が先に速報で流れたのが象徴的だった。韓国瑜候補に至っては、会見をドタキャンしてしまった。

9日夜に台北で開かれた国民党の決起集会にも参加したが、集まって来たのは爺さん婆さんばかりで、婆さん歌手が演歌を歌って盛り上げていた。翌10日夜の民進党の決起集会が若者で満ち溢れ、ラップやロックで盛り上げていたのとは対照的だった。

実際、私は今回、30人以上の台湾の若者に話を聞いたが、「国民党に投票する」と答えた人はゼロだった(国民党の決起集会の参加者を除く)。特に118万人の「首投族」(恐そうなネーミングだが「初めて投票に行く若者たち」の意)の多くが、民進党に入れた模様だ。

台湾では、いまや民進党が「国民政党」になり、国民党はこのままでは内紛→分裂という道を辿る気がする。内部から有力な若手政治家が出て、党をまとめ上げることができれば別だが。何せ「民進党の機関紙」とも囁かれる『自由時報』(1月12日付)にまで、「国民党は初心に返って『反中路線』を貫いて出直せ」とアドバイスされる始末なのである。

そうした中、仮設テントの中に蔡英文総統が現れてから、9時40分に会見が終了するまで、私の脳裏をぐるぐると、一つの疑問がよぎっていた――「なぜ蔡英文総統は、地獄から天国に這い上がれたのだろうか?」

翌12日付の『自由時報』の社説は、こう分析している。

〈 今回の選挙は、外的要因が間違いなく、最大の特色だった。特に中国の形成判断の誤りが、台湾の有権者の激烈な反感を買った。民進党は中国共産党に感謝すべきである。習近平その人が、蔡英文の最有力のサポーターとなったのだから 〉

『自由時報』が論じているのは、政治的な要因として、習近平主席が2019年1月2日に、「『台湾同胞に伝える書』40周年」の演説で、「『一国二制度』による早期統一」を強く促したこと。6月以降、香港のデモを弾圧して「一国二制度」への幻滅感を与えたこと。加えて経済的な要因として、米中貿易戦争で「台商」(中国大陸でビジネスする台湾商人)が台湾に戻ってきたことなどである。

たしかにこうした要因も大きいのだろうが、今回台湾で取材していて、台湾全島で根本的な地殻変動が起き始めているような印象を受けた。

 

ピッタリくる喩えになるかは分からないが、それは日本の新聞購読と似ている。新聞各社は、どうやったら若者に新聞を購読してもらえるかと、試行錯誤を繰り返しているが、すべてうまくいっていない。なぜなら、いまの若者たちは、新聞購読という「行為」そのものを拒否しているからだ。

同様に、中国がアメをチラつかせようがムチをチラつかせようが、いまの台湾の若者たちは、絶対に中国には靡(なび)かないのである。だから、中国がどうしても台湾を統一するというのなら、それは武力行使によって有無を言わさず統一するしかないことになる。1895年に日本が入ってきて、1945年に国民党が入ってきたように、20××年に共産党が乗り込んでいくしかない。

だが、その過程は悲劇的なものになるだろう。ましてやアメリカ軍も入ってきて、「台湾発の第3次世界大戦」など、アジアの誰も望んでいない。