蔡英文総統「圧勝」の現場で目の当たりにした「台湾人の中国離れ」

この流れはもう止められない

天国と地獄が入れ替わった夜

1月11日夜9時、台北市北平東路にある民主進歩党(以下、民進党)本部前に設けられた仮設テント。そこで「2020民主進歩党 総統副総統及び立法委員選挙国際記者会」が開かれた。

その少し前、外の広場を取り囲んだ数万人の支持者たちが、「オーッ!!!」という大歓声を上げ、私がいたテント内にも響き渡った。「蔡英文総統の得票数800万突破」という速報が、大型の電光掲示板に示されたのだ。

予定より1時間遅れて、「主役」の蔡英文(さい・えいぶん)総統(63歳)が、頼清徳(らい・せいとく)次期副総統(前行政院長)、陳建仁(ちん・けんじん)副総統、呉釗燮(ご・しょうしょう)外交部長を引き連れて登壇すると、待ち受けていた約100人の台湾内外の記者たちが、スタンディング・オベーションで迎え入れた。それは、817万231票という台湾憲政史を塗り替える未曽有の票数を獲得し、再選を決めた蔡英文総統に対する、記者たちの「敬意」だった。

「謝謝、謝謝! 記者の皆さん、私たちの勝利の会見に来ていただき、ありがとうございます……」

思わず、蔡総統の表情が緩む。

彼女は、いつもの黒シャツに灰色のジャケットを羽織い、空に照る今宵の満月のような、まんまるの笑顔を見せていた。63年の半生の中で、「最高の一夜」だったに違いない。

私は、そんな「世界一幸福な政治家」から、わずか15mほどの距離に腰掛けていた。そして一記者として、この歴史的な夜の目撃者となった――。

思えば、蔡英文総統は、わずか1年2ヵ月ほど前の2018年11月24日夜9時5分、やはりこの民進党本部に姿を見せ、統一地方選挙敗北のお詫び会見を開いた。その時は俯き加減で、絞り出すような声で語ったものだ。

「執政党の主席という身で、まずは本日の地方選挙の結果に対して、私は完全に責任を負っています。いまこの場で、民主進歩党の主席を辞任します。われわれの努力が足りませんでした。それによって、一緒に戦ってきた支持者を失望させたことについて、この場で真摯に謝罪します……」

この時の統一地方選挙は、首長選挙で6勝16敗。与党としてはありえないような惨敗だった。「敗戦投手蔡英文」「民主退歩党」「藍緑版図大洗牌」(青=国民党と緑=民進党の版図がガラガラポン)……。台湾メディアは、容赦なく蔡英文総統を叩いた。

 

この時、最も大きな勝利の雄叫びを上げたのが、民進党の絶対的基盤と言われてきた南部の副都・高雄で、「奇跡の勝利」を収めた国民党の韓国瑜(かん・こくゆ)新高雄市長だった。「韓流」と呼ばれてヒーローとなった韓国瑜新市長は、「高雄市のために4年間尽くす」とした公約を反故にし、今回の総統選挙に出馬。国民党候補として蔡英文総統と対決したが、552万2119票で、蔡総統の3分の2しか取れなかった。

韓国瑜候補は高雄市長を「3ヵ月休職中」で、「月曜日(13日)から公務に復帰する」とコメントした。だが、市長辞任は必至との見方も出ている(1月12日付『自由時報』他)。蔡総統は10日夜の高雄市での決起集会で、「あなたたちは2度、騙されるつもりですか?」と高雄市民に問いかけ、副都で109万7621票も獲得した。それに対し、韓候補は61万896票と惨敗したのだった。まさに今回、天国と地獄が入れ替わったのである。