女性の死に方が「男性化」しているという、驚くべき現実

法医解剖医が見た、女性の痛みや苦しみ
西尾 元 プロフィール

ひとり自宅で亡くなった女性

この日、解剖台に運ばれてきたのは、50代の女性。職場に出勤してこないことを心配した職場の人が、自宅で倒れている女性を見つけた。

警察が調べたところ、女性は何かの犯罪に巻き込まれたわけではなさそうだった。だが、死因がわからないということで警察は解剖することにした。

解剖を始める時には、私はまず、遺体を遠くからながめることにしている。そうした方が遺体の全体の印象を把握しやすい。実際に遺体の近くでメスを使い始めてしまうと、視野が限られてしまうので、全体の印象がわかりづらくなるからだ。

 

少し距離を置いて遺体をながめた時、長い間風呂にも入っていなかったのだろうか、皮膚には垢がこびりついていて、ひげや爪も伸び放題といった遺体もある。

だが、こういった汚れていると感じる遺体のほとんどは男性だ。女性の遺体を解剖する時に、遺体が汚れていると感じたことは、これまでほとんどない。この日運ばれてきた彼女も、女性らしい綺麗な印象を受けた。

死因はすぐにわかった。頭蓋骨を開けると、脳の表面が真っ赤になっている。くも膜下出血だ。女性は自宅にいた時、くも膜下出血を起こして、そのまま亡くなってしまったことになる。

出血が起こった時、誰かがそばにいて、救急車で病院に搬送していれば、女性は死なずに済んだのか。それは、だれにもわからない。くも膜下出血は、脳の底にできた動脈瘤が破裂して起こる。くも膜下出血は、生命維持に重要な中枢がある脳幹部に近いところで起こる。出血すると、すぐに命に関わることになる。

彼女にとって幸いだったのは、死後それほど時間が経っていないうちに遺体が見つかったことだ。一人暮らしの人が亡くなっているところを見つかった場合、遺体が見つかるまでに時間がかかることが多い。約3分の1の人は、死後2週間から2ヵ月くらいかかる。

出勤してこない女性を心配した職場の人が見つけてくれたおかげで、彼女の遺体は腐敗することもなく、綺麗なまま発見された。そのことがせめてもの幸運のように思われた。