〔PHOTO〕gettyimages

「全面戦争は望まないが対立は続ける」イランとアメリカの複雑な関係

中東大激動を読み解く

イランとアメリカとの対立がエスカレートしている。

発端となったのは、アメリカによるイランの「英雄」の殺害であった。2020年1月3日、イラクの首都バグダードの国際空港で、イラン・イスラーム革命防衛隊の精鋭部隊ゴドゥス軍のガーセム・ソレイマーニー司令官を含む7名が、米軍の自爆型ドローン3機によって殺害された。

これに対する報復として、5日後にはイランがイラク国内の米軍基地を10発以上の弾道ミサイルで攻撃するなど、暴力の応酬が両国間の全面戦争へと発展するのではないかとの不安が世界に広がった。

米軍は、これまでも「対テロ戦争」の一環として、同様の標的殺害を中東の各地で実施してきた。アメリカの国務省は、2019年4月に革命防衛隊を「テロ組織」に指定しており、その意味では、ソレイマーニー司令官も「テロリスト」であった。

しかし、過去にアル=カーイダ(2011年)や「イスラーム国(IS)」(2019年)の指導者を殺害したケースとは異なり、今回は標的が他国の正規の軍人であったという点で異例であった。実質的に組織ではなく国家を相手にしたのである。

そのため、今回の米軍の標的殺害の是非をめぐっては、どちらの国を支持するかといったポジション・トークも重なり議論が錯綜している。

しかし、ここでは、それ以前の問題として、ソレイマーニー司令官がイランの国外で活動していた事実、そして、それをアメリカが問題視していた事実から、中東という地域における両国の関係を冷静に見てみたい。そうした作業こそが、結局のところ、今後を展望するための確かな材料になるからである。

〔PHOTO〕gettyimages
 

不安定化していた中東

ソレイマーニー司令官は、いわば足で稼ぐ軍人であった。革命防衛隊のゴドゥス軍は、対外工作を主任務としており、イラク、シリア、レバノン、イエメン、アフガニスタンなどで、イランと同盟関係にある民兵組織を支援してきた。

ソレイマーニー司令官は、高位の将校にもかかわらず、これらの諸国を自ら歴訪しながら作戦の指揮をとっていた。2016年末にはシリア紛争の激戦地であったアレッポの最前線を「陣中見舞い」に訪れた様子が報じられるなど、「危険な前線まで足を運ぶ部下思いの司令官」としてのイメージが(イランの体制によって意図的に)つくられていった。

しかし、そもそも、なぜイランの国外に「陣地」などがあるのだろうか。イランが「陣地」を築くことが可能となったのは、中東に「脆弱国家(弱い国家)」が増えていたからである。「脆弱国家」とは、国際政治学や国際安全保障の分野で、統治能力や正当性が著しく低下している国家のことを指す。

アメリカのシンクタンク「ファンド・フォー・ピース」による最新版(2019年)の「脆弱国家指数ランキング」によると、178ヵ国中、イエメンがワースト1位、シリアが5位、アフガニスタン9位、イラク13位、レバノンが44位となっており、「脆弱国家」として深刻な状態にあることがわかる。