アパレル業界が「常時セール」という劇薬から脱却するために

「ファッション」を再興させる方法
井上 雅人 プロフィール

衣服が「飲み水」のように供給される世界

アパレル業界が、この20年ぐらいで行ってきたのは、一言で言えば、供給の効率化である。グローバルな規模で、効率的に原料を調達し、より安価な労働力を確保できる場所で生産し、先進国の若者でも同時代的だと思えるような魅力的な商品を、どの国の労働者でも手に届くような価格で提供する、効率的なシステムの構築だ。

別の捉え方をするなら、アパレル商品の供給網を「インフラ」として整備したのである。水やガスを供給するようにして、衣服を提供できるシステムを、グローバルな規模で作り上げたのだ。そしてそれは、大きな成功を収めたと言える。

例えるなら、発展途上国で今でも行われているように遠くの川で水を汲んだり、あるいは江戸時代のように水売りから水を買ったりするのではなく、蛇口をひねるだけで水を得られる仕組みを整備したようなものだ。こうした例から分かるように、インフラを整備することは、悪いことではなく、むしろ良いことである。

ただし、そのことによって、不可逆的に産業構造が急速に変化してしまったことが、様々な歪みを生んでいる。アパレル産業は、その構造に変化が起きているというよりは、違う産業に生まれ変わりつつあると言ったほうがいいのかもしれない。

 

水道の開通という事態に直面した水売りは、水売りを続けられるよう手を打つよりは、水道事業に何らかの新しい形で参加するか、違う業種に鞍替えでもしたほうがいいだろう。水道局もガス会社も、一つあれば十分で、それの後追いをしても意味がない。UNIQLOやZOZOは、たくさんあっても仕方ない

ただし、新しい産業に参加するからといっても、参加の仕方には慎重にならなければいけない。インフラとしてのアパレル産業の枠組みの中でショールーミングを行うことが、水道水の「試し飲み」を勧めるようなことにならないとも限らない。

しかし、長年にわたって顧客の心を掴んできた水売りに、全く何もできないかというと、そうでもないだろう。水道水では味わえないような、おいしい水として、ペットボトルに詰めて販売するような道もあるはずだ。だとしたら、アパレル企業には、何ができるのだろうか。