(C)トロル・ポプラ社

『おしりたんてい』に小学生たちがこんなに夢中になる理由

累計700万部の裏の「緻密なしかけ」

2012年から絵本シリーズ、2015年からは読み物シリーズを展開するトロル作『おしりたんてい』(ポプラ社)は、主に未就学児から小学校低学年までに絶大な支持を受け、2018年からのTVアニメ放映以降は中学年以上にも読まれるようになった。累計部数は700万部以上。

顔がおしりのかたちをしたジェントルな探偵が事件の謎を追い、最後は犯人に対しておならをかまして解決するという、一度見たら忘れられないインパクトの強い作品である。

なぜ『おしりたんてい』は、こんなに子どもたちに愛されているのか? ここでは、一見して自明である強烈なキャラクターたちの魅力「以外」の点から、同作が支持される理由について迫ってみたい。

 

探偵ものと「10歳の壁」

実は、『おしりたんてい』のメイン読者である小学校低学年までの子どもたちには、「探偵もの」を楽しむことは難しい。

渡辺弥生『子どもの「10歳の壁」とは何か?~乗りこえるための発達心理学~』(光文社新書)によれば、名探偵ホームズや怪盗ルパンのような推理小説を楽しむためには「二次的信念」と呼ばれる能力が必要になるという。

二次的信念とは、「Aは『Bが○○と考えている』と思っている」ということを理解する知的能力のことだ。ミステリーでたとえると「犯人は××というトリックで警察に○○と信じさせているが、これを△△警部は見破っている」といった、複数の人物の意図を理解する能力である。

こうした二次的信念課題をクリアする能力が発達するのは、おおよそ9、10歳頃だという。「10歳の壁」のひとつだ。このような「壁」があるゆえに、図書館での推理物の貸出率も小学校中学年から上がってくるのではないかと渡辺は推論している。

逆に言えば、ミステリーをミステリーとして理解するための能力は、未就学児や小学校低学年の多くにはほとんど備わっていない。だから『おしりたんてい』がミステリーとして子どもたちに読まれている、とは言えなさそうだ。

しかし、それは『おしりたんてい』が「ミステリーとして描かれていない」ことを意味しない。