司法書士の太田垣章子さんは、自身がシングルマザーで貧困だった経験もあり、家賃を滞納した案件に対して親身に取り組んで来た。そんな中、ここ最近急激に増えているのが「高齢者の家賃滞納」なのだという。

その実体験と対策を1冊にまとめたのが『老後に住める家がない!』(ポプラ新書)だ。2020年には女性の人口の半数が50歳以上となるといわれる現在、「高齢者の住居問題」は誰にとっても他人事ではない。

特に賃貸物件については、高齢者が借りることができない現状をアンケートでも明らかにしている。自分たちが親のことを考え、自分のことを考えるためにも、高齢者の住居の実情について、『老後に住める家がない!』より抜粋掲載させていただく。

持ち家のある元エリートが感じた「老い」

長年大手電気メーカーを勤め上げ、定年後悠々自適に持ち家で暮らしていた春山義男さん(73歳)ご夫妻。福岡・博多の中心街から少しバスで移動した住宅地に、40代で一戸建てを新築しました。住宅ローンはすでに完済。預貯金に退職金、さらに企業年金もあり、毎年夫婦で国内外の旅行も楽しんでいます。

思えば地元の国立大学を卒業し、日本の高度成長を支えた企業戦士でした。子育ても、すべて専業主婦の奥さん任せ。週休2日や有休消化なんてなんのその、人生の大半は仕事漬けでした。それでも日本の経済を、背負ってきた自負がありました。2人の子どもたちもそれぞれ独立し、家庭を持ち、孫も生まれ今では正真正銘のおじいちゃんです。上を見ればキリがないかもしれませんが、自分なりにエリート街道を歩んできた、そう思える人生でした。

さて、インフルエンザが流行りだした11月、奥さんが感染してしまいました。予防接種を受けた時期が少し遅かったのでしょうか。それでも注射のお陰で、症状は軽くて済みました。

おかゆを作って食べさせ、食べ終わった食器を運んでいたときに、義男さんは絨毯の端に躓き、その拍子に台所の流しで鼻を強打。勢いよく鼻血が噴き出しました。椅子まで歩くこともできず、その場にしゃがみ込み、そして滴る血を見て驚愕。こんなに大量の血を見ることなんてなかったので、ちょっとしたパニックになってしまいました。

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助けを求めようにも、奥さんはインフルエンザ感染中。仕方なく床に寝転がり、気分が落ち着くまで待つしかありませんでした。鼻血は押さえるものの止まらず、手は真っ赤に染まっていました。口の中まで血の味がして、生きた心地がしなかったのです。

今までなら、絨毯の端で躓くことなんてありませんでした。仮に躓いても、派手に転ぶ前に手がでました。食器を持っていたとはいえ、そのまま顔を強打するだなんて、反射神経が鈍った証拠でしょう。義男さんは、自分の体の衰えに正直びっくりしていました。

今まで「まだまだ若い」と自負していたのです。孫も生まれた年齢だけれど、自分では病気がちな奥さんのサポートもできて衰えを感じることはありませんでした。
「これが老いというものなんだ……」

今まで考えたこともなかった、高齢夫婦二人の生活の危うさ。
義男さんは初めて、これからのことを考えていかなければならない、そう思ったのです。