酒に酔い、担ぎ込まれて「日銭を奪われた」冗談のようなマジな話

魔窟に踏み込んでしまった…
高木 敦史 プロフィール

幸か不幸か、私はこの日、飲み代とは別に光熱費の支払い分と当面の生活費を合わせて3万円ほど下ろしていました。3万円あればいけるか? 分からないけれど状況によっては「これが全財産です」と言って差し出そう、と財布を開きます。

空でした。

人は胸の中にいつも小さな炎を灯しています。その炎がふっと消えた瞬間でした。

あーやられた。東京は恐ろしいところだ。都会には魔物が潜んでおり、自分は期せずして魔窟に迷いこんでしまった。こんなことならお酒なんて飲むんじゃなかった。

 

いや、そもそも地元の大学に進学していればこんな場所には来なかったのに。死んだおじいちゃんの言ったとおり、地元で公務員になれば良かったのだ。うちひしがれていると、女性が水を持って戻りました。受け取って飲み干す私に彼女は言います。

「オニーサン、道デ寝テタヨ」

道で寝ていた。そういえば、繁華街の大きくなっている方を目指して駅に向かい、高架の線路を発見したまでは良かったものの、そこから先歩けど歩けど駅その物に辿り着けなかったんだっけ。

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だって街並みは赤ちょうちんとラーメン屋とカラオケスナックばかりで、初めて歩く自分にはどれもこれも同じに見えたから……。私は極度の方向音痴で、大人になって多少はマシになったと思ってたけどどうやら錯覚でした。

そうして彷徨い歩き、少し頭を冷やそうと目についた電柱に額をすりつけて斜めに立っていたのです。そしたらだんだん力尽きて、額が地面に近づいていって……なるほど、そのまま倒れ込んで寝てしまったのか。

そういえば、見知らぬ女性に見下ろされ「ハイ」とペットボトルの水を与えられた光景が甦りました。夢か現か不明でしたが、どうやらそれがこの女性だったようです。彼女が酩酊している私に水を与えて肩を貸し、ここまで運んできたということなのでしょう。自分の足で歩いてきたなら、全く以て自業自得です。ああ、こんなことなら酒なんて飲むんじゃなかった。