酒に酔い、担ぎ込まれて「日銭を奪われた」冗談のようなマジな話

魔窟に踏み込んでしまった…
高木 敦史 プロフィール

ところがです。いったい何がどうなったのか、次に気が付いたのは見覚えのある我がボロ家……ではなく、知らないトイレでコートを着たまま、便器に顔が半分埋まった状態で目覚めたのです。さっきまで「やっぱ人の悪口言いながら飲む酒がいちばん美味いな」とか考えながら駅に向かって歩いていたはずなのに…。

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個室内を見回すと、床張りはフローリングで公衆便所や駅のトイレにしてはやけに清潔です。もしかするとノリオの家に転がり込んだ? だとしたらメンドイな。あれ、でもたしかノリオとははぐれてケータイもつながらないから、ひとりで駅に向かったんだっけ。う…気持ち悪い……。呻きながら起き上がり、便器に座り直します。

かすかな生き物の気配

「トントン」とドアが鳴り、私は咄嗟に「すみません、大丈夫です」と返事とも謝罪ともつかない声でブツブツ言いながらドアを開けると、

「ミズ、ノムカ?」

年の頃は30歳手前くらいでしょうか――そこには、キャミソールとホットパンツ姿の女性が真正面に立っており、心配そうながらも落ち着いた雰囲気でコップを差し出してきたのです。

 

ナニコレコノ状況? そう思いつつも、差し出された水を素直に受け取り飲みながら、心臓はバクバク、内心では一気に混乱が爆発します。ここはどこ? この人は誰? ノリオは?――混乱は恐らく表情に浮かんでいたでしょう。しかしうまく隠したフリしてトイレを出ます。

すると広がっていた光景は、見知らぬキッチンでした。5・6人ほどだったと思います。コップを持って私の横に立っている女性と同様の出で立ちで、6畳ほどのスペースに並んだ丸椅子にずらりと座っていました。

テーブルの上にはお菓子の山と飲みかけのコーヒーカップ、灰皿、化粧品が雑然と置かれていて、ほどほどに生活感はあるものの、そこそこ小奇麗にされていました。

「アッチで寝るとイイヨ」

水をくれた女性が茫然している私の手を引き、布で仕切った出口の方に向かいます。