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家族とは何か…元農水次官「息子殺害」東京地裁426号法廷の午後3時

「懲役6年」の判決文が語るもの

30年にわたり、なんとか普通の生活を取り戻せないかと苦心した一家は、最悪の結末を迎えた。殺人を正当化する余地はないが、法廷で明らかにされたこの事件の顛末は、あまりにもやりきれない。

 

実刑か、執行猶予か

〈主文、被告人を懲役6年に処する〉

例年より暖かい冬晴れに照らされた、12月16日の午後3時。霞が関・東京地裁4階の426号法廷で、世間を揺るがした殺人事件の判決が言い渡された。

被告人は、元農林水産事務次官の熊澤英昭(76歳)―'19年6月1日、都内の自宅で、息子の英一郎氏(享年44)を包丁で刺して失血死させた事件の犯人である。

裁判の過程で明らかになったのは、東大出のエリート官僚一家が直面した、あまりにも悲しい現実である。子どもの家庭内暴力と引きこもりを解消できず、妻はうつ病を患い、娘は自ら命を絶ってしまった。

社会的な地位が高く、分別もつくはずの人間が、我が子を手に掛けなければならないほど追い詰められた。そして、我が子を夫に殺された妻は、法廷で懸命に夫を庇う。人生とは、そして家族とは何なのか、その意味を問う、やりきれない事件である。

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実刑か執行猶予付きの判決かで注目されたこの日、熊澤被告は、黒のスーツに紺のネクタイ姿で入廷した。ややうつむきがちだが、しかし足取りを乱したり、感情を乱して声を荒らげるようなことはなく、証言台の椅子に腰掛けた。

弁護側の傍聴席最前列、被告にいちばん近い席に座ったのは、英一郎氏の母、つまり熊澤被告の妻・A子さんである。

超然と言うべきか、はたまた諦観なのか。自らの子を手に掛けたとは思えない、静かに事実を受け入れる雰囲気を被告が醸し出すなかで、判決は言い渡された。その瞬間、熊澤被告は中山大行裁判長の目をまっすぐと見て、しっかりと頷いた。

本誌が入手した判決文および冒頭陳述や論告求刑、公判での証言からは、解決しがたい問題との苦闘、そして我が子を殺めたことへの深い悔悟が浮き彫りになった。