マグロをさばく「すしざんまい」の木村清氏〔PHOTO〕Gettyimages

マグロ「初競り」はなぜ異常価格になるか、誇りを賭けた闘いの軌跡

もはや「億越え」も珍しくない

初競りとM-1、意外な共通点

日本の「年末」と「年始」を彩る風物詩として近年、定着した2つのイベントがある。前者は東西の若手お笑い芸人が賞金1000万円をかけて生放送で漫才を競い合う「M-1グランプリ」。後者はお正月明けの東京中央卸売市場(豊洲市場)で開催される「マグロの初競り」だ。

「漫才」と「マグロ」。この全く異なる世界に命を賭す者の共通点は、いずれも勝負が「一枚の板の上」であるということだ。漫才師にとってセンターマイクの置かれた劇場の舞台は「板の上」と呼ばれる。

 

お笑いの世界の住人が、たとえベテランであっても「板の上には魔物が住む」とまことしやかに語るのは、彼らが毎回、全く異なる客を相手にする「ライブ」という条件のもとで勝負しているからに他ならない。どんなにベテランコンビの鉄板ネタであっても、ウケる時もあれば、スベる時もある。この板の間に住み着く笑いの神様を味方につけたコンビが、その日、一番の笑いをとることができると、この世界の住人は真顔で語るから面白い。

マグロ漁師にとっての「板」は、「板子一枚下は地獄」と呼ばれる船の甲板である。真冬の鉛色の世界に繰り出す船は、霙(みぞれ)まじりの寒風に容赦なく煽られる。そんな荒海で一本の釣り糸(テグス)を介して、時に300kgものマグロと対峙する漁師は、マグロ釣りは命がけの「博打」と口を揃える。

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漁師には、一度味わうと忘れることができない感覚があるそうだ。それは巨大マグロが餌に食らいついた時、一気にテグスが数十m、沖合に持っていかれる時の手応えだ。その衝撃で、手元の余分なテグスが、ピューと音をたて、大人の背丈の高さまで跳ね上がる。これを漁師は「花が咲く」と表現する。