世界の中心へ!井上尚弥の父が語る❝自分にしかできないこと❞

世界を制するために必要なこと(後篇)
井上 真吾
 

父親だからこそ言える言葉がある

――今回の試合後の尚弥さんのインタヴューを読むと、「このラウンドはこう行くよ」とか、自分で試合をプロデュースできるようになったように思いました。なので、もうあまりお父さんから指示することもなくなったのかなと思ったのですが。

真 でもやっぱり状況状況で、こちらの声が必要になる時はあるはずだし、逆にもし自分がいなくなったら、厳しいことを言ってくれる人がいなくなって、浮ついた気持ちになるかも知れない。

自分がいるのといないのでは、全く緊張感が違うんで。自分にしか言えない言葉もある。
それは、もちろん親だからなんですけど。

いいところがあれば言うし、悪いところがあればまた言う。それはこれからも、トレーナーとしても、親としても変わらない。

――逆に、オーバーワークになることは?

真 いえ、逆に今は抜いてますから。尚の体が重たいなとか、疲れがたまってるなと思った時には、「今日は軽く流そうね」と。自分も経験を積んできたので、抜く時は逆に抜いちゃいます。

――もはや追い込む一辺倒ではない?

真 普段からしっかりやってるんで。昔はそれがわからなくてオーバーワークになったことも確かにありましたけど、もうその加減もわかりますから。

――いろんな加減もわかってきて、尚弥さんは、これから円熟期に向かう?

真 そうですね。これまで培ったことを熟成させる。いい経験は、これまでしっかりできてきてるんで。

と言って、どんな相手でも気は抜けない。ステージが上がれば上がるほど、相手のレベルも上がってくる。一瞬の隙が、これまで以上に命取りになる。だから前よりも、よりいっそう集中力を高めて行かなければならない。

その点では、むしろ逆に前よりも上げて行かなければならない。「いまのままでいいよー」っていうのはやっぱりないですから。

だからこそ、自分がいなきゃダメなんです。「よりいっそう慎重になれ」「集中しろ」・・・・・・そんなことを尚に対して言えるのは、自分しかいないですから。

ほやっとなって足をすくわれないように、ぴりっと緊張感を持たせるのが自分の役目。

あれだけの結果を出すと、やっぱり周囲から「もう敵もいないし大丈夫だろう」とか言われて、変な自信というか、緩くなってしまう恐れは確かにあるので。

――お父さんは、いつも同じようなことをおっしゃっているわけですが、尚弥さんの方で、「もうわかってるよ!」、「めんどくさいなー」という思いはないのでしょうか。

井上真吾氏

真 (質問にあきれて)本人のために言って、本人もそう思って受け入れているのだから、そんな風になるわけないじゃないですか。相手のためを思って本気で言っていれば、そんなふうにはならない。

――いやな言い方ですけど、尚弥さんは「成功者」になったわけじゃないですか。そうすると、慢心すると言いますか・・・・・・

真 でもその成功は、例えば自分のかみさんとか、みんなが支えてのものじゃないですか。自分ひとりのものじゃない。それを本人が一番わかってますから。

それに自分だって、365日、口うるさく言ってるわけじゃないですから。たまーに、「ぽよん」って言う・・・・・・それでいいんですよ。それでに本人が我に返って「あ、ちゃんとやらなきゃ」、そう気づけばいいんです。

――言う回数が、昔に比べて減ったということはある?

真 (苦笑いしつつ)いえいえ、そもそも、昔からそんなに言ってないですって。何か感じた時には遠慮なく言うというだけのことであって、しょっちゅうガミガミ言ってるわけじゃないですから。

尚はチャンピオンだから、テレビ局の人とかも大事に扱ってくれる。そうすると、さすがに尚だって勘違いすることがあるかも知れない。そういう時には自分が言わなきゃならないだろうな・・・・・・っていうだけの話であって。

そういう時、言ってあげられるのは、やっぱり親しかいないですから。